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草津温泉に佇む老舗旅館「奈良屋」に聞く、あなたの知らない「湯守」の世界
インタビュー

草津温泉に佇む老舗旅館「奈良屋」に聞く、あなたの知らない「湯守」の世界 奈良屋(群馬県/草津)

「湯守」をご存知でしょうか?「湯守」とは、江戸時代から続く伝統的な仕事の1つです。温泉を訪れた人が常に最適な温度でお湯を楽しめるように管理し、整える、いわば“お湯の番人”です。今回は、普段なかなか触れることのない「湯守」という仕事について、草津温泉にある「奈良屋」の支配人・佐伯達也氏に伺いました。

創業145年以上の老舗旅館「奈良屋」

「奈良屋」の簡単な歴史を教えてください。

明治10年に創業し、今年で145年になります。開業のきっかけは、明治2年に起きた草津の大火と言われています。湯畑の近くで大火事があったそうで、その際に色々と燃えてしまったこともあり、当時の大地主が土地を手放したところを館主である小林家の先祖がこの土地を買って宿を始めたと伺っております。宿の名前に関しては、草津温泉が奈良時代に発見されたという説に加え、繁栄していた奈良時代にあやかり「奈良屋」という名前が付けられたそうです。

草津温泉には「奈良屋」以外にも、100年以上歴史のある宿は結構あるのでしょうか?

140年以上、中には江戸時代から続くところもございます。今、草津温泉には大小合わせて100軒程度の宿が存在しますが、江戸時代にも同じく100軒程度の宿があったそうです。

100年以上続けられる宿が多いというのは、それだけ草津温泉が魅力的で需要があるということですよね。

草津温泉は標高1,200メートルの山の上にありますし、アクセスが良いとは言えません。電車の最寄り駅もなく、高速道路からも車で1時間半以上離れております。今でもこのような状況ですので、昔はもっと不便だったと思います。加えて冬は雪が深いので、昔は宿の営業はしていなかったそうです。春になると、山の下から上がってきて、雪かきをして営業を再開していたと聞いております。そういった立地条件の中でも、今なおお客様が途絶えないのは、温泉の泉質が魅力的というところが大きいと思います。

人々を引き付けてやまない強酸性の草津の湯

「奈良屋」は、草津最古の白旗源泉を引いてらっしゃるそうですが、どんな特徴がございますか?

草津温泉の源泉は、大きなもので言うと6か所ございます。その中でも特に湯畑源泉と奈良屋が引いている白旗源泉は、地元の方からも評判が高いです。泉質は、強酸性硫黄泉の1種類のみでして、殺菌作用が強く傷や慢性皮膚病、神経痛などに良いとされています。ただ草津温泉のお湯は本当に酸性が強いため、お湯に触れていなくても蒸気として酸性が広がることで機械なども壊れてしまいます。

例えば湯畑に近いお部屋のテレビなどは、3~4年で壊れてしまったり、壁のコンセントを取ると中の銅の部分が真っ黒だったり、そんなことがしょっちゅうです。効能は良いのですが機械がほぼ使えないので、伝統的な人力の方法で温泉を管理しないといけないというところがございます。また、お湯を源泉からパイプで引く際、鉄などの素材は1週間程度で溶けてしまいます。そのためパイプを設置するにも、温泉に溶けない材質を選ばないといけません。お湯に特徴があるのでお客様にも来ていただける一方、そういった温泉管理の大変さというものはございます。

常に最適なお湯を作り続けるお湯の番人「湯守」

「湯守」とはどんな仕事なのでしょうか?

「湯守」の仕事の1つは、温泉を適温に保つことです。大体草津の源泉は50度前後ですが、なかには90度前後のところもあります。源泉から引っ張ってくる間に少し冷めるのですが、冷めきらないため、「奈良屋」では「湯小屋」と呼んでいるプールのようなところで一晩寝かせてお湯を冷ましています。そこから各浴槽に引っ張って、大体45度くらいになります。それを42度前後までに調整するのが「湯守」の仕事です。もちろん水を加えたら冷ますことができますが、効能を薄めずに冷まそうという意図で始まったのがお湯の調整「湯もみ」です。本当は、スイッチを入れていつでも42度に設定できるのが管理する側としてもいいのですが、草津温泉のお湯は酸性が強すぎてそれが難しいのです。

外の気温も日々異なりますから、2~3時間に1回、その時の外気温に合わせて出るお湯の温度を微調整します。「42度にしてください」と温度計を渡されたら、おそらくほとんどの方は42度のお湯に調整できると思うのですが、その42度を一定時間キープできるお湯を作らないといけない、それが難しいところです。ちょろちょろ出るお湯の出具合で温度が変わってしまいますので、やはり毎日専門でやっている方でないと、一体どのくらいの湯量で出すべきかの検討はつかないです。加えて、お風呂の浴槽の大きさなどによっても条件が変わってきますので、その時々で最適な温度にするというのが「湯守」の役目であり、難しい仕事でもあります。

さらに温度管理の他にも、温泉が滞りなく供給されるようにする、それも大事な「湯守」の仕事の1つです。例えば、湯の花という固形物が沈殿してしまって、どんどんパイプを細くしてしまうんですが、それによってお湯の流れが止まったりしないように調整するのも大事な仕事です。温泉宿として、温泉が止まるということは、一大事です。お部屋に不具合があれば、他のお部屋を案内することもできますが、温泉はそうはいいきません。宿の営業ができなくなってしまいますので、日々の温泉の流れを管理することはとっても重要です。
もちろんその他に、基本的な温泉の清掃だったり、浮遊物を取ったり温泉全体にかかわるのも「湯守」の仕事です。

ちなみに現在「湯守」をされていらっしゃる方はどんな方なのですか?

現在「湯守」として10年くらいキャリアのある方が2名いらっしゃいます。1名は必ず現場にいていただき、その他が湯守をサポートしております。

何個くらいの浴場を見ていらっしゃるんですか?

大浴場がそれぞれ男女別で1個ずつ、貸切風呂が3個、露天風呂付客室が1個です。浴槽の数で言うと9個ございます。

「湯守」の1日のスケジュールを教えてください。

朝9時に出勤して、10時半くらいまではお客様が浴場を使われていらっしゃいますので、その後にお湯の交換や清掃作業を行います。12時半~外来入浴のお客様が入られますので12時くらいまでにお湯を仕上げて、その後一旦帰宅し16時頃に宿に戻ってきます。夜は他の仕事も手伝いつつ、頃合いを見計らって温度点検に行きお湯の調整をしております。

「湯守」の必須アイテムについて教えてください。

奈良屋では「湯かき棒」を使っています。基本的な温度の調整はバルブで行いますが、わずかに温度が高い時などはお水を使わないで湯もみをして温度を下げます。湯もみとは、お湯を混ぜることでお湯の温度を下げることを言います。湯もみショーなんかで使われている板は「湯もみ板」と呼ばれていますが、板ですと混ぜづらいこともあり、うちでは「湯かき棒」を使っています。

「湯かき棒」は昔から使っていらっしゃるアイテムなのですか?

はい、壊れたらまた新しいのを宿で用意しています。加えて温度計、そしてお掃除道具などです。後は、浴槽に浮いているゴミなどを取るための簡単な吸引道具のようなものを使っております。イメージは大きなストローです。他のところで使っているかは定かではないのですが、先々代の「湯守」が使い始めたと聞いております。

「湯守」の方々はどのような思いでお湯と接していらっしゃるのでしょうか?

先々代の「湯守」は、温泉は手間のかかる子供みたいだと言っておりました。いつも目をかけて、面倒を見ないといけないですし。「湯守」はお湯を守るという意味と、子守の2つを掛け合わせているなんて聞いたことがございます。

体調を見ながら少しずつお湯を楽しむのがおすすめの入浴法

「湯守」が湯もみをした後のお湯の変化についてお聞かせください。前後でお湯にどんな変化がでるのでしょうか?

アルカリ泉の、とろっとした美人の湯を柔らかいと表現することがよくありますが、強酸泉はその真逆です。酸性のお湯は少しピリピリするような肌触りが特徴です。ただ、奈良屋のお湯は強酸性ですが、50度以上の熱さだったお湯を一晩寝かしたり、「湯守」が丁寧に湯もみをしたりすることでお湯に空気が入るからなのか、草津温泉の中でもお湯が柔らかいと言っていただけることが多いです。

おすすめの入浴方法があれば教えてください。

酸性・アルカリ性の強度を数値で表す指標を“pH”というのですが、草津温泉は大体レモン水と同じくらいのpH.2.0です。アトピーや汗疹等に殺菌効果があるので良いのですが、普通のお湯ではないので、より身体が温まって湯あたりを起こしてしまったり、毎日入っていたら肌が真っ赤になってしまったりという方もなかにはいらっしゃいますので、ご自身のお身体を良くチェックしながら入るのが良いと思います。
長時間浸かるというよりは、出たり入ったりを繰り返す入り方がおすすめです。

後はお家で楽しめる湯の花も販売しております。

溜めている湯小屋のお湯を抜くと半年分の湯の花が沈殿しているので、それを天日干ししてパウダー上にしたものを売店で販売しています。ご自宅のお風呂にいれる方もいらっしゃいますが、硫黄なので追い炊きするとお風呂の機械が壊れてしまいます。洗面器に入れたお湯に溶かしてちょっと楽しむなんてことも良いと思います。お手軽に温泉気分を味わえるのでぜひご自宅でも試してみていただきたいです。

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佐伯達也 プロフィール
1975年生まれ、茨城県出身、草津在住15年
奈良屋の支配人として従事
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奈良屋

群馬県/草津

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