インタビュー

観光の常識を変えた!南九州の原風景を守る宿

霧島連山を臨み、放し飼いの鶏が戯れ、囲炉裏や土間の井戸端で和む…他に類を見ない世界観のある宿。旅好きな方であれば「鹿児島にすごいリゾートがある」という噂を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
「リゾート」の概念を「刹那的な非日常」から「郷土の風景・生活文化の継承」に変化させたルレ・エ・シャトー加盟の宿。2018年初夏に一休.comに参画した「天空の森」「忘れの里 雅叙苑」を独占取材しました。

◆「忘れの里 雅叙苑」がオンリーワンの宿である所以

―かつて故郷の風景はこうだったのかな、とノスタルジックな気持ちになるような茅葺きの建物が特徴的ですね。どういった経緯で、このようなスタイルになったのでしょうか。

当初、「忘れの里 雅叙苑」は周辺の土木工事に携わっていた鳶職の人たちの宿でした。そういう人たちが宿泊する施設として経営しながら、理想とする旅館業を目指していたわけです。
いつしか旅館になり、「なぜ人は旅をするのか」という疑問を持つようになりました。当時は、「旅館って何だろう」「お客様って何だろう」「観光って何だろう」とひたすら考えていました。
その頃の日本は工業化が進み、田舎から若者が働きに出ていった後には馬小屋やお年寄りが隠居されていた家などが残りました。
しかしこの若者たちもいつかきっと戻ってくる日がある。そのために語り継ぎたくなる故郷を作ろうと感じ、移築をしようと考えました。3年間をかけて、南九州の集落風景、茅葺きの日本の田園風景を作っていきました。

―故郷を残すという発想が素敵ですね。旅をするとその土地の風土をどこかで感じたいという感情が湧きますが、なかなか深く感じ取れる環境が限られてきている部分もありますし。

旅人はその土地や文化を訪ねてきているのですから、食事も南九州を感じることができるものが好ましい。家にいれば陶器やガラスのお皿に盛って食べるご飯ですが、器とは「物を乗せる」もの。お料理の面でも「忘れの里 雅叙苑」のお皿は陶器や有田焼でなくても構わないと考えています。竹の器だったり、平べったい石や木という季節のかけらがお料理の材料に合うのではということに気付いて、その土地の表現として料理を組み立てています。

竹のお箸を引き抜いた時の香りや、ご飯が炊けた時の香ばしい香り、鶏が鳴いている声を感じると、タイムスリップして昔の故郷に戻ったような気持ちになる、そんな旅の魅力を見出そうとしました。

―客室に露天風呂をつけられたのも、1978年と日本でも極めて早いタイミングでしたよね。

実は、当時エステが流行っていたのですが、他の方が入っている中に自分の身体を見せることに抵抗がある人もいるのではないかと考えました。であれば家族水入らずで気兼ねなく入れる方が心地よいのではと、客室に露天風呂を付けました。
後にニューヨークタイムズが来て「古い日本」が表れている旅館として紹介してくださいました。
その後、客室の露天風呂をリビングルームで包んだ「お風呂リビング」を考案しました。開放感はできるだけ露天風呂と変わらないように大きな窓を採用し、室内の利点を生かして夏でも冬でも快適な温度で湯浴みができるようにしています。入浴後にダイレクトに横になれる、今までなかった楽しいバスタイムが堪能できるかと思います。

◆「天空の森」に見る、圧倒的なスケールで描く豊かさの本質

―続けて「天空の森」を開業されましたが、圧倒的なスケール感で訪れる方を虜にされていらっしゃいますね。開業の際のコンセプトやテーマはどのようなものであったのでしょうか?

人が絶対にマネできないものを創造しようと「天空の森」を開業しました。土地を探すだけで7、8年もの歳月を費やし、空港に近いことや温泉があることから買収を決めましたが、当時100人くらいの地権者を自ら説得して回りました。

自分たちで施工していく中で、自然の原理とはふさわしい場所にふさわしいものがあることだと気が付きました。だから私もその土地にふさわしい建物を造ろうと考えたのです。実は「天空の森」は、まだまだ未完成。今は河原のほとりを恋人たちが手を繋いで歩けるような、ロマンティックな散歩道にしようと毎日手入れをしています。

あるお客様からは「未完成なところがここの魅力だ」と言われたことがありますが、今もなお「天空の森」は進化を続けています。
現在、全国各地に「天空の森」に似ている宿泊施設ができ始めていると感じるのですが、我々はコピーされるようなオリジナルな存在でいなくてはいけないと思っています。

―時間も空間も壮大なスケールで、その贅沢さに圧倒されてしまいますが、キーとなるコンセプトはどのようなものなのでしょうか。

天空の森は、東京ドーム13個分の敷地の中にたった5棟のヴィラ、宿泊できる客室は3棟のみ。「人の気配を全く感じない距離感で過ごす」部分が現代の人間にとって大切なことだと考えています。「天空の森」のドレスコードは裸。つまり、お客様の社会的立場や役割など、外的な装飾を外して過ごしましょうということです。
ここでは見る人もいなければ、そういうことをする必要性がないからです。

ここにいらっしゃるお客様は、一流のモノは大抵体験されたという裕福な方が多いです。しかし「天空の森」に来ると、お金があることが果たして幸せなのだろうか?という問いに直面します。豊かさとは決して“豪華である”ことではないと気付かされるのです。

露天風呂に浸かって空をただ眺めていると、人工衛星が通っていくのがわかります。1時間もすると地球が自転し、南と北がどちらかがわかってくるし、1人でいることがこんなに寂しいものかと人恋しくもなる。人間の本能が目覚め、自分自身に五感があることに気付きます。

◆ルレ・エ・シャトーの取り組み

―日本のルレ・エ・シャトーメンバーはどの施設も非常にコンセプトが明確で、それぞれ特別な個性をもっていらっしゃいますね。こちらの施設も「世界のどこにでも、世界にただひとつ」というルレ・エ・シャトーの精神に非常に近いと感じますが、「天空の森」「忘れの里 雅叙苑」でそのように感じるところはどういう部分でしょうか。

唯一無二ということで言えば、雅叙苑の貸し切り風呂。あの大きな石のお風呂を作る際に「旅に出た時に入りたいお風呂とは何だろう」と考えました。
やはり個性がないといけないので、25トンもある大きな石を運んできて、最初に切石で切った石を四角に削り、半年ほどかけて掘りました。

また、「忘れの里 雅叙苑」と「天空の森」で共通するのが、地方再生に重点を置いている点。「花は野にあるように」という言葉がありますが、ここに季節があるということが大切。ルレ・エ・シャトーも本質で言えば同じことだと思います。

「ホテル栄えて地元滅びる」という言葉がありますが、私もまさしくその通りだと思っています。例えばここが何かの産地だとして、円高だから海外から輸入する。そうすると円高が進めば進むほど、日本の観光は疲弊していきますよね。加えて職人がいないから、半製品になっていく。
徐々に旅館業はノックダウン式の製造業のような産業になってしまう。私はこれを防ぎたいですし、食い止める使命があると感じています。

―おっしゃる通り、様々な国籍や価値観の方が国内旅行を楽しむ時代になりました。観光を持続可能な成長産業に育てていく必要性があると伺う機会が多いです。

「忘れの里 雅叙苑」や「天空の森」は、お客様に出す料理の食材一つとっても非常に仕入れ値が高いです。しかしそれをすべて受け入れて、我々が買い続けるということは、その技術がずっと残っていくということ。今、観光業で一番大切なのは、地域活性化を促すことであり、我々はそれを実行していかなくてはならない。どれだけコストが高くても、農家の人たちが食べていける価格が適正な仕入れ値であり、それは地域を守るための価格なのだと考えています。

◆今の時代に求められる「旅のかたち」

―現代人が求めている「旅」のあり方について
現代の人が本質的に求めている「旅」のあり方にはどのようなものがあるとお考えでしょうか。

今の時代は、旅人が旅に失望している時代だと感じています。豪華、ゴージャス、一流、というのに、みんなもう飽き飽きしています。
そういったお客様は「次はどこに行けばいいんだろう」と右往左往していらっしゃる。そんな部分を埋めていくことが、私の仕事だと思っています。

日本の旅館というのは、文化産業。逆にホテルやリゾートは文明産業です。旅館は、そこに滞在する時間やその土地での体験を売っています。料理であれば、旅に出て食べたいのは豪華なフレンチではなく、その土地のローカルな家庭料理なのではないでしょうか。
例えば北欧に旅行に行ったら、その場でフレンチを食べるのではなくてその地のお母さんが作る郷土料理を食べたい、という方がほとんどだと思います。
そういった地域に根差した文化や体験を提供していくことが、今後の旅のあり方だと感じています。

地域の生活文化の提供を目指し、古民家を移築され客室に利用した「忘れの里 雅叙苑」。「山ひとつを貸し切る」究極のリゾート「天空の森」では心から安らげる空間を提供されています。
本物の上質とは何かを問い続ける「未完成」の宿は、限りなく頂点に近いレベルの高さを求めるが故であると感じました。これからも果てしない年月をかけて、進化し続けることでしょう。

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田島健夫(たじまたてお)
「天空の森」「忘れの里 雅叙苑」「湯治場たじま本館」オーナー。
東洋大学卒業後、金融機関勤務を経て、1970年に「雅叙苑」を創業。当初は集客に苦しむも、1975年に古民家を移築した「忘れの里 雅叙苑」の営業を開始し、徐々に評判の宿に。1993年に近隣の山を買収し自らの手で開拓をスタートした「天空の森」は、2018年現在も進化を続けている。
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忘れの里 雅叙苑

鹿児島県/妙見温泉

天空の森

鹿児島県/南きりしま

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