インタビュー

一五〇年継ぐ「和の様式美」 その価値に触れる 西村屋本館(兵庫県/城崎温泉)

開湯1400年の歴史をもつ風情ある温泉地、城崎。情緒豊かな温泉街の中ほどにある「西村屋本館」は、創業150年の歴史と伝統を今に伝える温かいおもてなしで国内外の人々を魅了しています。今回は、常務取締役 池上 桂一郎様のインタビューを通し、『西村屋本館』の伝統と城崎温泉の地域の魅力をご紹介します。

―堂々とした門構えで、伝統と格式を感じますが、中に入るとぬくもりのある空間が広がっていますね。「西村屋本館」ならではの魅力や大切にされていることをお聞かせください。

私共「西村屋」は江戸安政年間よりここ城崎の地で旅館を営んでおりまして、現在の当主・西村総一郎で7代目となります。城崎は大正14年(1925年)に起こった震災(北但大震災)の影響で一面焼け野原となってしまいますが、当時の町長であった4代目・西村佐兵衛が、町民の皆さんと共に復興に奔走致しました。「駅は玄関、道は廊下、宿は客室、土産物屋は売店で、7つの外湯は大浴場」という、まち全体を「ひとつの旅館」と捉えたおもてなしが現在の温泉街を支える理念にもつながっています。

大切にしている点は、まずは日本建築ならではの佇まいですね。2016年7月には玄関門、大宴会場「泉霊」を含む棟、平田館を登録有形文化財に指定いただきましたが、お越しになられたお客様からも「瀟洒」ですとか「凛としている」とお褒めいただきます。一方で、古い建物でもありますので、清潔であるよう心掛けています。お客様がロビーの床をご覧になって「飴色に輝いているね」と喜んでいただくことも。西村をはじめ、社員が一番気を配っている点のひとつです。

―おもてなしという点ではどのような特徴がありますか?

大切な方との思い出に、とお越しになられるお客様が多い次第ですので、ご不便の無いよう、常に目配り・気配り・心配りを行いつつも、お客様同士の空気感を損なわず、居心地の良い「つかずはなれず」の接客に努めさせていただいております。一方で、城崎という町ならではの、身近でアットホームな雰囲気も大切な要素ではないかと思っています。

―伝統と歴史を持つ老舗の旅館が、あえてルレ・エ・シャトーに加盟されたのはどのようなきっかけがあったのですか?

もともとは2013年3月に京都で開催された、世界最大の富裕層向け旅行商談会インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(ILTM)ジャパンのオープニング・フォーラムを拝見したのがきっかけです。その時、城崎温泉の魅力を世界に伝えるには日本からでなく、むしろヨーロッパなど海外でプロモーションすることの必要性を感じました。その後、日系4世のアメリカ人社員の入社や、世界最大の旅行博 ワールド・トラベル・マーケット(WTM)への地元・豊岡市との共同参加を経て、2015年11月に日本政府観光局(JNTO)さんのお声がけで、念願だった本家ILTMカンヌ出展を果たしました。その初日に偶然お会いしたのがルレ・エ・シャトー日本支部ディレクターの神谷由紀子さんと、当時CEOでいらっしゃったジャン=フランソワ・フェレさんでした。
「カンヌ」といえば日本人にとっても憧れの観光地という印象ですが、当時はパリ同時多発テロの発生直後で、街中も兵隊が銃を持ってパトロールしているような状況でしたので、そんな緊張感と複雑な感情の中で、「観光地とは如何にあるべきか」といった本質的な疑問と向き合わざるを得ませんでした。
そんな経験を通して改めて感じたのが、先ほども申し上げた「ひとつの旅館」という町是ともいうべき共通認識の元、町民の皆さんの努力で震災から復興し、今日まで維持・発展してきた城崎温泉の「まちの魅力」でした。自分たちにとって当たり前の日常が、一歩外に出てみると非常に稀有で、観光地としてはもちろん、文化的体験としても大きな価値と魅力を備えているのでは、と感じました。

例えば城崎温泉は「浴衣が正装」ですので、海外の方もチェックイン後には浴衣を着、下駄を履いて外湯に行かれます。他人と一緒に裸でお風呂に入った経験のない方々も多い訳ですが、そんな人々が日本人同様にリラックスした表情で外湯めぐりを楽しまれていること自体が一つの共存のカタチといいますか、我々日本人だけでなく、世界の人々にとっても一つの理想のカタチであり、実は城崎はそれを体験できる世界的にも珍しい場所なのではないかと。そんな城崎温泉を海外に広め、その喜びと価値に共感していただける方に少しでも多くお越しいただきたいと思いました。一方で、城崎温泉の世界的な認知度はまだまだ低く、自助努力のみでPRしていてもなかなか広まらないだろうという歯がゆさもあって、帰国後に相談させていただいたのがルレ・エ・シャトーの神谷さんでした。
ルレ・エ・シャトーは「おもてなし」と「料理」でより良い世界の構築に貢献する、という独自のビジョンを掲げていますが、それを聞いた時、我々が日々実践するおもてなしや目指している世界観と非常に近いと感じ、加盟のご相談をさせていただきました。その後、審査などを経て2016年9月より「西村屋本館」として加盟を認められましたが、私共としましては「西村屋本館」以上に、「城崎温泉という『ひとつの旅館』」を世界に広めたいという意識は加盟後の今も変わらない次第です。

―地域を盛り上げたいというお気持ちからルレ・エ・シャトーに加盟をされたというのは斬新なケースですね。地元に海外のお客様が来るようになって変化したことはありますか?

実は2007年に、「ロンリープラネット」という英語圏でシェア一位の旅行ガイドブックで城崎温泉が「ベスト温泉タウン」に、「西村屋本館」が「ベスト温泉旅館」に選ばれました。急に海外のお客様が増えたので、不思議に思って英語のアンケートを取ってみたところ、7~8割の方がそのガイドブックで知ってお越しになられたということで。私を含め、英語のつたないスタッフが暗中模索で5年ほどがんばりましたが、徐々に厳しくなってきた頃の2013年9月、地元の会社で働いていた日系4世のアメリカ人、フカイ・コリンさんが弊社に合流してくれました。日本人以上に日本人と言えるくらい丁寧かつホスピタリティに溢れる人材で、以後、海外戦略担当として海外旅行博でのPRから客室係の英語教育まで、今も幅広く担当してくれています。特に会席料理のお品書きの翻訳は、調理法や食材の知識も必要で非常に難しいのですが、日々勉強して頑張ってくれています。
やはり海外の方にも日本のお客様と同じレベルでご満足いただくべきですので、2017年9月からは「キクタン」などの英語教材で有名な株式会社アルクさんにご協力いただき、おもてなしに必要な一連の英会話と献立英語を手軽に学べる「おもてなし英会話アプリ」や、海外在住の英語教師によるマンツーマンでの「オンライン・レッスン」など、ITを活用した取り組みを開始しています。教材の準備にあたっては、単なる接客英語の丸暗記でなく、時には日本人でもわからないような食材や調理法の知識についても英語と日本語の両方で勉強してもらっています。

―アプリや最新のテクノロジーで教育をされているとは、かなり本格的に英語教育をされてらっしゃるのですね。

決して流暢に喋れる必要はないですし、むしろおもてなしの意識や、日本語での知識の習得の方が大事だと思っています。ただ、例えば客室係がお客様の質問の意図に気付いても言葉がわからないために伝えられない、といった歯がゆい思いをするシーンも度々あるようですので、そこをフォローするようなツールを提供することで、「お客様の満足」と「社員の満足」の両方をプラスにできるのでは、と思っています。また海外のお客様からすれば、日本の伝統的な「衣食住」を一度に体験できる良い機会として旅館での宿泊をお選びになられる方も少なくないと思いますので、そのようなお気持ちを持っていただけること自体ありがたいことですし、その期待に少しでもお応えしたいと思える若い人が近年、我々のような旅館で働く道を選び始めていると感じています。
また、社長が全旅連(全国旅館生活衛生同業組合連合会)の青年部部長を務めておりまして、業界や地域の課題解決にも積極的に取り組んでおりますので、社員も良い影響を受けている次第です。

―今後、時代性に合ったものを作り上げることについて、考えていることや気にかけていらっしゃることがあればお教えください。

人も旅館も自らが持つ特徴やその魅力をしっかりと認識し、絶えず磨いていくことが一番大切なのではないでしょうか。西村屋の場合は、日本の古き良き温泉地・温泉旅館の風情とその文化を心ゆくまで体験していただくこと。映画や本で見たような、昔ながらの日本の景色の中で過ごせるのが城崎の魅力ですので、その魅力を更に高める西村屋ならではのおもてなしに努めたいですね。
一方で、働いている社員が自らの成長とやり甲斐を常に感じられるよう、業務の見直しやソリューションの導入、教育への取り組みなども積極的に進めていきたいです。

―城崎温泉自体が、古き良き日本、風情を感じられる温泉地ですし、大事に守っていきたいですよね。

城崎温泉は三方が山で一方が海という、ある種俗世から隔絶された環境なのですが、そのおかげで昔ながらの風景や文化が守ってこられた側面もあると思いますし、その結果として日本のお客様、海外のお客様の別なく、誰もが違和感なく共存でき、くつろぐことができる場所になったような気がしておりまして、そのこと自体、大変ありがたいことですね。
城崎温泉は他の観光地に比べ欧米のお客様の比率が高いのですが、中でもルレ・エ・シャトーの本部であるフランスからのお客様を良くお迎えします。現在は大阪と城崎温泉を往復する特急バス、ミシュラン・グリーン・ライナーも運行していまして、一昔前では考えられなかったような海外との絆も生まれています。

―私たちのサービスでは「こころに贅沢させよう。」をキーメッセージに置いております。池上様が考える「こころの贅沢」とはどんなものがありますでしょうか。

「贅沢」というと日本人にはネガティブに捉えられる側面もありますが、「贅沢」の英訳である「Luxury」は本来「得難い悦び」や「優雅」など、海外の方にとってはむしろプラスのイメージを持つ言葉なんですよね。
「まちが優雅」、と言うとちょっとおこがましいですが、城崎温泉も優雅にゆったりと時を過ごせる場所ですし、そぞろ歩きをするには最適な場所だと思います。とりわけ城崎温泉の正装である「浴衣」に「下駄履き」で歩くと、誰でも非日常のスイッチが入ることと思います。実際、夕食後に温泉街を歩いてみると、9割以上の方が浴衣に下駄履きですので、まるで映画の世界に迷い込んだような気分になります。大切な方と一緒ならなおさら優雅で特別な時間を過ごせるはずです。そういった意味では城崎温泉も、一休.comさんの「こころに贅沢」を叶えられる場所なのだと思いますし、ルレ・エ・シャトーも「そこにしかない特別な体験」を重視していますので、これからも城崎温泉がそのような場所であり続けるよう努力して参りたいと思います。

日本庭園を囲むように建てられた客室から感じられる美しい四季、海と山に囲まれた但馬の素材を活かした伝統の料理。そして温泉慕情に浸れる城崎ならではの文化体験。「西村屋本館」では一つ一つ真心を込めて丁寧に作り上げていらっしゃる印象を受けました。優雅な時間を約束するおもてなしは、一朝一夕でできることではありません。まさに150年の伝統が培う技術と真心が生み出すものではないでしょうか。

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池上 桂一郎
西村屋本館 西村屋ホテル招月庭 常務取締役
慶應義塾大学環境情報学部卒。在学中の1996年、学内発のウェブマーケティング企業立ち上げに取締役として参画。大手広告代理店、調査会社との協業に尽力した後、2007年より城崎温泉の旅館・西村屋のIT担当室長として社内外の情報化とインバウンド対策に取り組む。2015年より現職。
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西村屋本館

兵庫県/城崎温泉

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