京都が育んできた高級絹織物「西陣織」の産地・西陣。明治期から昭和初期にこの地に建てられた京町家が、当時の趣をそのままに一棟貸しの宿としてリノベーションされました。「西陣 藤田」は、建物の文化的な価値が評価され、2015年には国の登録有形文化財としても指定されています。京都の歴史や文化に触れる貴重な体験が叶う、宿の魅力をあますことなく紹介します。
目 次
滞在を通して深く京文化に触れる

京都市街の北西部に位置する西陣エリア。西陣という地名は、室町時代中期の応仁の乱で、武将・山名宗全が西に陣を敷いたことが由来となっているそうです。その山名宗全の邸宅跡に建てられた町家が、今回の宿「西陣 藤田」。
敷地には東棟と西棟があり、それぞれ明治期から昭和初期頃に建てられ、建築年代や様式の異なる建物で構成されています。外観からも、虫籠窓や格子窓など、伝統的な京町家のつくりが見て取れます。

ゲストが宿泊できるのは、伝統的な町家の設えを今に残す東棟です。当時の面影そのままの東棟の扉を開けると、中には広々とした玄関スペースが広がっていました。
宿の名前にもなっている藤田家は、元々この地で織物製造業を営んでおり、大正から昭和初期にかけて西陣の中でも屈指の織機を所有していたそう。入り口では現在オーナーの藤田めぐみさんが出迎えてくれ、町家の案内をしてくれます。
暖簾は、「藤田」の文字をモチーフにしたデザインが施されています。こちらもぜひチェックしてみてください。

奥に進むと、当時「おくどさん」(かまど)のあった通り庭に出ます。ここは伝統的な土間の仕上げ方の一つ、三和土(たたき)になっており、戦前の生活道具や西陣織に関わる道具が並べられています。

木製の冷蔵庫や古い型の扇風機など、歴史を感じさせるレトロな展示品がたくさんあり、ちょっとした美術館のような空間。宿泊ゲストはいつでも自由に見学することができます。
モダンと歴史が調和したリビング

大きなテーブルが存在感を放つリビング・ダイニング。お宿は最大9名まで宿泊可能なため、大人数でも座れるようにと、特注のオーダーテーブルが中央に置いてあります。
古くに建てられた京町家に違和感なく馴染むように、リノベーションに使う木材はわざわざ当時の古材を探し出してきたそうです。

テーブルの向こうに見える大きな柱は、300年もの歴史ある木材を金沢から取り寄せ、伝統的な手なぐりの加工が施されているほか、格子窓の木枠には伊勢神宮にあった樹齢400年の神杉を採用するなど、オーナーの説明を聞けば聞くほど、貴重な空間にいるのだなと実感せざるを得ません。
キッチンを使わないときは閉めておけるのもいいですね。
現代風のモダンな空間でありながら、どこか懐かしさを感じるのは、そうした歴史ある素材が使われているからなのだと感じました。

夜になるとライトアップしたお庭も楽しめます。

連泊するゲストも多いため、簡単な調理ができるよう、冷蔵庫や電子レンジのほか、鍋やまな板といった調理器具も充実しています。

お皿やグラスもたっぷり用意してありました。

リビング・ダイニングとは別にある、広々とした和室2部屋にホール、主寝室。ゆったりとした空間で過ごせるのも魅力です。ホールの一角には、京都の歴史や文化に関する書籍が並ぶ本棚がありました。あまり目にすることのない珍しい書物もあり、京都好きにはたまらない、魅力的なラインナップとなっています。
また、この空間に足を踏み入れたとき、明るすぎない照明に心がとても落ち着く感覚がありました。「当時の人たちは、こんなほの暗さの中で生活を送っていたのかも」と思いを馳せ、少し昔を体験したような気持ちにもなったのでした。

主寝室には「シモンズ」のベッド。布団の上に掛けてあるのは、帯屋の名残を感じさせる「帯」だそう。

主寝室の横の和室。こちらでお布団を敷いて寝ることもできます。外国からのゲストの中には、「布団で寝てみたい」という要望も多いそう。子連れ旅や3世代での宿泊にもちょうど良さそうですね。
奥の収納スペースには、乾燥機付き洗濯機がありました。


床の間がある和室。連泊する人の中には、外出せず、宿でのんびり過ごす人もいるそう。蔵のある庭や部屋の掛け軸を眺めて過ごすなど、ここならではの豊かな時間が過ごせそうです。
モダンにリノベーションされた洗面所とお風呂

宿に来るゲストを“友人をもてなすような感覚でお迎えしています”と藤田さんは話します。

タオルは、世界でも認められた今治タオルブランド「イケウチオーガニック」。
“いつでも気持ちのいいタオルを使ってもらいたくて、多めに用意しています。またタオルの糸がほつれていたりしないように、常に一番いい状態で使ってもらいたいので、タオルはいつも私が手洗いをしているんです”。
至るところで、ちょっとした気遣いを感じられる……これも京都らしいおもてなしの一つなのかもしれません。

バスルームには、最新仕様のシャワーに広々としたバスタブ、壁と天井には天然のヒノキを使用。

湯船に浸かると、ちょうど目の前にお庭が広がる高さになっています。

シャンプーやリンス、ボディソープは自然派化粧品として知られるブランド「MARKS&WEB」。

“歯ブラシや櫛、シャワーキャップをはじめ、クレンジングや洗顔料、化粧水なども安心してご使用いただけるものを厳選しています”と、藤田さん。女性には化粧品セットと美容マスクがプレゼントされるそう。

朝食はついていませんが、希望すれば、和食の二段弁当や精進料理などを手配してもらえます。京都情報に精通した藤田さんに相談すれば、予算に応じて料亭、割烹、老舗の懐石料理などの相談にものってもらえます。観光地なども迷ったらぜひ相談してみてはいかがでしょうか。
贅を尽くした空間、西棟を見学

ふだんは予約制で見学を受け付けている西棟も、ゲストは特別に見学させてもらえます。西棟は織屋としてお客様を迎えるための離れとしての場所でもあったそう。当時の当主のこだわりが詰まった贅を極めた設えを堪能できます。

中でも目を奪われたのは、アールデコ風の洋間。杉を編み込んだ網代(あじろ)天井にタイルを用いた暖炉、手すきガラスの窓など、歴史ある和の中に馴染むモダンな雰囲気がたまりません。

洋間と和室の間には、茶事用の水屋がありました。タイル張りでモダンな印象ですが、もちろん当時のまま。今見てもすばらしく洗練されたデザインに、思わずため息が漏れます。

この建物は3階建てで、水屋のあるお部屋はなんと高さ8メートルを超える吹き抜けとなっています。昭和初期に時建てられた木造建物で3階建て、しかも吹き抜けという大胆な空間構成に驚かされます。

洋間から水屋のある空間に続くのが、書院風座敷です。町家は季節ごとに設えが変わるのが特徴。取材に行ったのは夏だったので、お部屋は座敷間の襖が外されて御簾が掛けられ、籐網代が敷かれるなど、夏仕様になっていました。それも2日がかりで入れ替えるのだとか。夏を涼しく過ごすための空間作りは、見た目だけでも涼しげな印象がありますよね。

「西陣藤田」は、登録有形文化財に宿泊できるという貴重なお宿のため、建物に関心があるというゲストも多いそう。私もまずは歴史を感じさせる空間や意匠に目を奪われたのですが、部屋を案内してもらっていくうちに、空間づくりも接客も、そのすべてが京都ならではの「お客様へのおもてなし」であることを感じました。今後は、宿泊者向けのツアーなども計画中とのこと。ぜひ公式サイトもチェックしてみてください。
西陣 藤田
京都府/西陣












