時間を重ねることで醸し出される魅力。その魅力にどっぷり浸って過ごせるのが、登録有形文化財の宿です。今回は、その中でも、一棟をまるごと貸し切って過ごせる宿をご紹介。ほかではなかなか味わえない、希少な旅となること、間違いありません。
目 次
1.建築家・遠藤新が設計したモダニズム建築の邸宅で過ごす
国指定登録有形文化財 葉山加地邸(神奈川県/三浦郡)

設計はフランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新。竣工は1928年。その近代建築の秀作と言われる邸宅を改装し、一棟貸切の宿としたのが「国指定登録有形文化財 葉山加地邸」です。

サロンを見下ろすライブラリー、展望室、庭へ続くサンルームなど、モダニズム建築の粋を味わえる宿で、建築好きなら興奮するに違いないポイントがたっぷり。特にあちこちに用いられた大理石の連なりは、なるほど、大谷石を愛したフランク・ロイド・ライトが手がけた帝国ホテルにつながるものがあります。

当時の梁を残しつつも、機能性とモダンさを加味してリノベーションされた浴室は、雰囲気抜群。邸宅の風情に溶け込んでいて、新たな見所と言っても過言ではありません。2017年に、国の登録有形文化財に登録。葉山に立つこの邸宅を独り占めして滞在できる幸せを感じに、ぜひ出掛けてみてはいかがでしょう。
国登録有形文化財 葉山加地邸
神奈川県/三浦郡
2.築200年の母屋を改装し、アートで彩った富士山麓の宿
岳麓翠苑(山梨県/南都留郡)

1818年(文政元年)築の長屋門と1819年(文政2年)築の母屋からなる、河口湖畔の一棟貸切の宿「岳麓翠苑」。この母屋が、500年余り続いた「井出家」の分家「井出新宅」の家屋で、2005年、国の登録有形文化財に登録されました。

改装にあたってのコンセプトは“キュレーション&デザイン”。狙い通り、見事に具現化されたリビングは吹き抜けの大空間。古い梁とアンティークゴールドの照明や襖絵、オリジナルファブリックを用いた大ソファなど、美意識に貫かれた新旧の魅力が一体化して、唯一無二の空気を醸し出しています。

三間続きの和室にも、素晴らしい板戸絵や襖絵が見て取れますよ。寝室は2階に3つ。キッチンで自炊しても、ケータリングや出張シェフ(いずれも有料)に来てもらってもOK。お好みでどうぞ。この宿では晴天を祈るのをお忘れなく。全室の窓から、富士山が望めます。
岳麓翠苑
山梨県/南都留郡
3.京都西陣の中心に立つ明治初期の宿
西陣 藤田(京都府/西陣)

今でも時折、カタカタという織機の音が聞こえてくる京都・西陣山名町。その中心にある山名宗全の邸宅跡で織物製造業を営んでいた京町家を改修し、一棟貸切の宿としたのが「西陣 藤田」。東棟と西棟があり、宿泊できるのは1876年(明治9年)築の東棟。通り庭には、昔の生活用具や西陣織の道具などが展示され、ちょっとした博物館のようです。

床暖房入りの天然石タイルを敷いたリビング・ダイニングは、モダンながらどこか懐かしさを感じさせる空間。ガラス戸の向こうには中庭が望めます。ほかにシモンズのベッドを入れた主寝室、奥の間となる和室、バスルームで構成されており、最大で9人までの宿泊が可能。朝食は希望によって仕出しを手配してもらえます。

1998年、登録有形文化財に登録。連泊する人も多いそうで、暮らすように滞在できたら、西陣の魅力により触れられるかもしれません。
西陣 藤田
京都府/西陣
4.城下町の風情が漂う宇和島城近くの再生旅館
木屋旅館(愛媛県/宇和島)

政治家では後藤新平や犬養毅、作家では司馬遼太郎や吉村昭。そんなそうそうたる著名人が宿泊した「木屋旅館」。愛媛県宇和島市にあるこの宿の創業は、1911年(明治44年)。一旦は惜しまれつつ廃業したものの「新しい観光名所に」という声に応え、2012年に復活開業。リニューアルに伴って、1日1組の一棟貸しの宿へと形を変えました。

2階には3つのゲストルームとリビング、ライブラリー。1階には続き間となった20畳ほどの和室があり、これらを全部独り占め。最大で10人まで利用が可能です。

注目は、2階の床板の一部にアクリル板を使ったこと!古い屋根の架構の様子が見られるほか、1階から2階の吹き抜け天井に至るまで、縦の抜け感が抜群で、面白い効果を生んでいます。2014年に国の登録有形文化財に登録。宇和島城にも近いので、周辺のお散歩と共に楽しんで。
木屋旅館
愛媛県/宇和島
5.木綿街道の魅力が詰まった、造り酒屋の蔵宿
RITA 出雲平田(島根県/出雲市)

江戸から明治にかけ、木綿の集積地として栄えた出雲市の平田地域。日本海と宍道湖の間にあるこのエリアは今では「木綿街道」と名付けられ、昔の風情が残るスポットとして人気を集めています。その街道筋に立つのが、1877年(明治10年)創業「酒持田本店」の向かい側にある「RITA 出雲平田」。昭和初期に建てられた蔵は2017年、国の登録有形文化財に登録されました。

改装を経て誕生した蔵宿は、昔の面影を残した木の温もりあふれる空間。1階は一部を吹き抜けとしたリビング、2階が寝室、そして地階もあって、畳敷の居間となっています。

特筆したいのは、酒持田本店が造った「日本酒風呂専用 ヤマサン正宗」を用いた日本酒風呂が楽しめること。近隣の店舗と連携した夕食は、日本酒のペアリングもOK。発酵食をメインとした朝食も自慢の一つで、日本酒にまつわるあれもこれも存分に堪能できます。
RITA 出雲平田
島根県/出雲市
その宿に泊まること、そのこと自体が旅の目的になりうる、登録有形文化財ステイ。旅が終わっても、その余韻はいつまでも続きそうです。












