数寄屋建築と美しい庭が心を和ませる京都の名宿「要庵西富家」。世界の一流ホテル・レストランが加盟する「ルレ・エ・シャトー」メンバーで、2010年から「ミシュランガイド」に掲載され、欧米を始めとする海外のゲストも数多く訪れます。今回は、5代目庵主である西田和雄氏にお話を伺い、京都ならではの「世界でひとつだけの宿」のおもてなし方について伺いました。
創業150周年を迎える「要庵西富家」の魅力
―「要庵西富家」という宿の名前の由来についてお伺いできますでしょうか。

「要庵西富家」の創業は1873年(明治6年)で、2023年に創業150周年を迎えます。元々先代までは「西富家」という屋号で営んでおりました。宿を継いだ1992年に、きめ細やかな接客ができる旅館を作ろうと20室から10室の小規模旅館に転換し、その際に「要庵」という名をつけました。
この宿がある地は富小路の骨屋之町と言いますが、その昔、扇の骨を作る職人が多く暮らしていました。扇子の骨は「要」で留めることに由来します。また、お茶室には「~庵」と名付けられることが多いですが、京宿の中心であり、人の集まる「要」という意味を込めて、「要庵」としました。それまでの代と今の代で違いを見せたいと考え、かつ京都にお住まいの方には「西富家」という名前で親しまれていたので、そのまま残しています。

2020年に6席のカウンター割烹を作った時、名前を考えたのですが「要・Kaname」という名前にして、宿を「西富家」と再定義しました。料理の方も個室の懐石は「西富家懐石」、カウンター割烹は「要・Kaname」と分けています。
―料理旅館「要庵西富家」ならではの魅力や、大切にされていることはどのような点でしょうか?

「要庵西富家」の懐石は、茶道に縁ある、機会の機、季節の季、器の器という「キ・キ・キ」の心で食材と向き合い「要庵西富家らしさ」を大切にしています。美味しいのは当たり前で、そこにお客様が楽しんでいただける驚きやストーリー、粋や洒落を取り入れています。
旬の素材を取り入れ、食べたことがある料理ではなく「次は何が出てくるんだろう」とワクワクするような料理が理想ですね。
また、家族経営であることも特徴で、料理人に全てを任せるのではなく、そこに西田家も関わって、いつの時代でも「要庵西富家」のスタイルを踏襲する形にしたいです。経営者もスタッフと同じように料理のストーリーを提案し、組み立てることで、一本筋が出来ます。
言い過ぎても、任せっきりでもいけないし、京料理の味加減と同じで良い塩梅が必要ですね。
―先ほど厨房も見せていただきましたが、ピカピカに磨かれ、細部にまで気を使われていて、評価が高い理由のひとつだと実感しました。

今、イタリアンでもフレンチでもスパニッシュでも、日本料理をものすごく取り入れています。京料理だけは鎖国じゃないけども、かたくなに取り入れないというのは、時代に合っていないのではないかなと。他の国の素晴らしい所は取り入れていこうと思います。
オープンキッチンも、ヨーロッパの著名なレストランはゲストを厨房に連れて行き、プレゼンテーションをします。京都では何故できないんだろうと考えて、そういうプレゼンテーションができる空間を宿に作ろうと思いました。
実際に口にするものを見せてもらうと、その後のお食事も楽しみですよね。うちでは“お食事が始まる前から食事が始まっている”と考えています。
―「要庵西富家」の客室を拝見した時に「自分の家のように寛いでもらいたい」という印象を受けました。どのようなおもてなしを目指されていますか?

おもてなしというのは「サービス」、昔は旅館の要素として「施設」「料理」「サービス」とあったんですが、今はそれだけではないと思うんですね。
京都にある7室の宿なので、7室だからできること、小規模だからできること、西田家というファミリー経営だからこそできることがある。「細やかなことをさりげなくする」を取り入れています。
数寄屋の空間も、本の1冊にしても単に買ってくるのではなく、自分の想いの元で考えてお部屋に置いたり、CD1つとっても、こういう音楽だったら良いかなと考えたり。なので「セレクトが良いですね」と言われた時は、嬉しいですね。英語で言ったらセンス、日本語なら粋、洒落というものを大事にして、大切にする感性を磨いています。

京都の人って「あんた分かったはるか?」という、いけずな所があるんですよ。さりげなく置いている置物も、実はその価値を分かっているのかを見ている。細やかな所に魂が宿るとも言えます。1200年の文化を持つ街の誇りがあるし、さりげなくやり続けることの集大成が、おもてなしだと思います。
また、京都にある宿として“新しさの中に歴史を感じ、歴史の中に新しさを感じる”をコンセプトにしています。
スクラップ&ビルドした大規模ホテルも京都に多くなりましたが、全部更地にしてお金をかけた新しい建物に、本当の歴史があるのか?その時代では通用しても、何十年後はどうだろうと。逆に、歴史があっても新しさを取り入れなければ、古さばかりが目立ってしまいますよね。だからその感覚を大事にしているんです。

2020年秋に「葵」「篝火」のお部屋をリニューアルし、水回りも解体して一から作りました。数寄屋造りは面白いもので、本間は聚楽の壁と建具をまっさらにしただけで、見違えるようにきれいになって、それ以外変える必要がなかった。
改めて、数寄屋造りという昔ながらのものの素晴らしさを実感しました。
数百年前に作られた茶室も、既にそこで完成されているので、それを解体して作る必要がない。「歴史の中に新しさがある」素晴らしさ。148年続いた歴史があり、脈々と流れているのが「要庵西富家」の特徴で、それを提供するのもおもてなしだと思うんですね。
「要庵西富家」ならではの、持続可能な取り組み
―ルレ・エ・シャトーに加盟されたきっかけは、どのような経緯だったのですか?

30~40代の頃は、自分の基準で日本の良い宿を見て、そのレベルの宿になれたら良いと思っていました。50代になって子育ても落ち着いて、女将と海外に行き、ルレ・エ・シャトーメンバーのホテルや、スモールラグジュアリーのホテルに泊まった時に、世界を見渡せばすごいホテルがいっぱいあると改めて気づきました。
日本の基準では、井の中の蛙だと。世界基準を目指さなければ、お客様は満足されないんじゃないかなと思ったんですね。また、世界的なネットワークを作りたかったんです。世界のルレのメンバー、オーナーと交流し、学び合うということで入って良かったと思います。
―ルレ・エ・シャトーでは“地域貢献”を重視されていらっしゃいます。京都で宿を営むことで、心がけていらっしゃることはありますか?

宿の存在理由を大切にしたいと思いました。
チリの自然の中に1軒だけ宿があって、どこだろうと思ったらブエノスアイレスから1,000キロ離れたパタゴニアだったんです。
京都で例えたら中京区に1軒、または兵庫で丹波の山奥に1軒だけあるようなもので、そんなのは物理的に無理ですし、その土地、その町に合った場所ならではの宿の在り方があると思いました。
「要庵西富家」で言えば、京都のど真ん中で文化に囲まれている。個々の持つ良さを特徴に、更に磨いていけばいいのではないかと。それもルレに入ってからこそ分かったことですね。

また、SDGsに対する取り組みも、だいぶ前からルレ・エ・シャトーからのレクチャーで重要性を感じました。環境やサービスに関して、いち早く教えてくれたのはルレ・エ・シャトー。
「要庵西富家」の取り組みは、約150年続けてきた持続性です。スクラップ&ビルドしない、それは食材に限らず持続していることに意味があると思います。両親が買った備品も捨てるのではなく、さりげなく使っている。
ここに飾っている絵も、もとは掛け軸で、掛け軸を外して額装にしています。逆のことも可能で、そういう風に時代に応じてやっていく。
「料理旅館」として食材のプレゼンテーションをして、生産者の顔が見えるようにしていますし、限りなくごみを少なくし、資源の保護に努めています。
―今後、時代性に合ったものを作り上げることについて、考えていることや行われていきたいことがあれば、お教えください。

先日、僕が考えていることをまとめてこれを6代目の娘と息子に渡し「これを指針に宿を作りなさい」と書いたんです。
・Property/施設
・Cuisine/料理
・Hospitality/おもてなし
・Art&culture/芸術・文化
・Originality/個性
・Sustainability/持続的革新
・Management/経営
・Good Luck/運
・Story/ストーリー
この9つの柱を3つずつ細分化すると27になります。柱は多いほど倒れにくい。そして(実行するのを)「難しい」という言葉を削除する。
難しいと言えばストップしてしまう。それを具体的にすれば良いのではと思いますね。
受け取った側が、どのように捉えるかは次の世代の子供ら次第ですが「要庵西富家」のオリジナリティを考えて、今後の未来に向けた宿づくりをしていけば、大手のホテルが沢山できても、資本力の嵐にも倒れない宿の魅力になると思います。
【プロフィール】
西田和雄(「要庵西富家」5代目庵主)
1955年京都生まれ。1977年同志社大学文学部心理学専攻卒業後、家業である株式会社西富家に入社、常務取締役を経て1993年代表取締役に就任して現在に至る。
1873年創業西富家旅館を1992年に10室の数寄屋造りと懐石の宿・要庵西富家に改築。現在7室。2020年京都コンテンポラリ-懐石『要・Kaname』を新築する。
(社)日本ソムリエ協会認定ソムリエ
【編集後記】
常ににこやかにお話される西田様の言葉の端々に、京都の旅館として今後も輝き続ける志の高さを感じました。細やかな所にまで気を配り、唯一無二の体験を提供する。13年連続ミシュランガイドに掲載されているのは「要庵西富家」がされてきたことへの評価だと思います。
要庵西富家
京都府/中京区












