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【極みの美食対談】マッキー牧元×岩佐十良:「里山十帖」で食す、風土に根ざした恵み
インタビュー

【極みの美食対談】マッキー牧元×岩佐十良:「里山十帖」で食す、風土に根ざした恵み 里山十帖(新潟県/越後湯沢)

一皿の料理の細部にまでこだわり尽くし、究極の美食体験をする宿――。越後湯沢駅から車で20分、南魚沼の山の中にひっそりと佇む「里山十帖」は、地域の風土・文化・歴史を料理に表現することがテーマの宿。今回は特別企画として、国内外を飛び回る美食家・マッキー牧元氏と、「里山十帖」オーナーであり「自遊人」編集長の岩佐十良氏の対談が実現しました。地域の食材をふんだんに使った料理の秘訣や、この宿ならではの過ごし方とは?

現地の里山でしか味わえない風土の味覚を求めて

―マッキーさんは、「里山十帖」は2度目の滞在だそうですね。前回はどのような滞在でしたか?

マッキー牧元:初めて「里山十帖」にお伺いしたのは去年の10月でした。
料理を作っている人の地元食材への愛が、食べるもの一つ一つから感じ取れて、よく伝わってきて。本当に気持ちよく食事ができました。それが一番素晴らしかったですね。
私も色んな宿に泊まって地域のものを食べますが、気持ちがすっと素直になれたり、背筋が伸びたり、そういう料理が重要かなって思っています。
珍しいものって「どうでしょうか? 都会の人には珍しいでしょ」って出されることが多いんですよね。

岩佐十良(以下岩佐):ありがとうございます。そうおっしゃっていただいて、とても嬉しいです。
私は東京の池袋の生まれで、もともと会社が日本橋にありました。今から16年前に、南魚沼という場所に会社ごと移転・移住してきたんです。
8年くらい暮らして本当にいい場所だなと思っていたところ、たまたま「里山十帖」の建物に出会いました。もともとスキー民宿のような宿泊施設だったのですが、ちょうど東日本大震災の直後でお客様が全然来なくなってしまって、廃業するという話を聞きまして。知り合いの農家の方がここを経営していた方と親戚で、「引き継がない?」とご紹介いただきました。
私も宿泊施設には詳しい方だったんですけど、朝昼晩と24時間続けて営業をしている宿泊施設が大変なのは分かっていたので、労働力の割に合わないし、レストランをやりたいと思っていました。農園レストランのような体験型のレストランをやりたいと。

ホテルや旅館をやろうという感覚は全くなかったのですが、食に対する設備がしっかり整っていたことと、景色や環境が素晴らしい場所ですし、8年住んでいたこともありまして、やってみようかなって感じで大リノベーションを敢行しました。
滞在時間が長くなるので、風景や空気感を楽しんでいただいて、お食事を召し上がっていただいて、お客様に総合的なライフスタイルの提案ができるなって。
今は物流が発達していますから、日本中のものが何でも食べられる世の中だと言われていますよね。特産品に関しても、どこでも手に入りますし、わざわざここまで来る必要がない時代とも言えます。
敢えてここにお越しいただくからには、「量として採れないもの」とか「山に自生しているもの」とか「ここで作ったもの」という形で、ここでしか食べられないものを提供しようと考えていますね。

マッキー牧元:宿泊は人だけでなく何から何まで大変だと思いますが、何回か試行錯誤されて、一番いいと思ったことをやられているなと感じます。
前回、私が一番感動したのは、コウタケのお吸い物。あれはすごかったですね。蓋を開けた瞬間に、森の中に吸い込まれていくような、神秘的な感じと不思議さがあって。小さなお椀の中に無限の自然が広がっていて、飲めば飲むほど引きずり込まれる。もちろんコウタケはキノコの中でも素晴らしい食材ですけど、こんなに力があるんだと。

岩佐:コウタケもあのときたまたま採れたもので、秋にはキノコを目的にお越しになるお客様も結構いらっしゃいますが、天候不順とか雨が降っちゃったりすると、採れるとは限らない食材です。「里山十帖」では自然に逆らわず、その日その日に入るもので、どう季節や旬に応じたものを召し上がっていただこうかと考えて、料理をつくっています。

マッキー牧元:その日の食材で、毎日組み立てていただくありがたみがありますよね。珍しい食材をいただけることが当たり前の世の中になっていますけど、本当はそうではないと感じ取る場所なのかもしれませんね。
先ほど、発酵部屋を見せていただきましたが、ずっといたいくらいワクワクしました。1時間くらいかけて、全部味見したい。発酵ものは大好きなので、興味がありますね。
日本だけでなく東南アジアなど世界の発酵ものを見てきましたが、1つの宿であれだけのものを持っているところはなかなか無いんじゃないですか。

岩佐:多分、なかなか無いでしょうね。
今日は雪がないのでリアリティーがないですけど、例年3m~6mくらいの雪に覆われると、食材が何もないんですよ。私たちが地域のものをご用意しようと思っても本当に何もないので、保存する工夫をしなければいけない。昔の方々の知恵で、この地域では長く辛い冬を越すために発酵保存を当然のようにしています。
私たちも、地域の風土や文化をお客さんにお伝えしないとってことで桑木野(料理長・桑木野恵子氏)が始めて。1年に1回しか試行できないので、毎年色々と実験をしています。旬は一瞬で過ぎていくじゃないですか。ワラビもフキノトウも、できる範囲内でやっているうちに、あっという間に旬が過ぎちゃう。

今年はこれを実験した、失敗したらもう1回やってみよう、2年かけてできたから、もうちょっと仕込んでみよう、というサイクルです。
多湿な環境もここの特徴で、発酵部屋は半地下になっていますので、夏はひんやりしているんです。壁からじわーっと結露しますし、地下水がちょっと染み出るような感じもあるんですよ。蔵と同じで涼しくて湿度が高いので、発酵にとっては非常にいい環境ですね。
だから、発酵部屋はいい発酵が先行する傾向にありまして。乳酸菌がどんどん強くなりますし、酵母も強くついてくる。

マッキー牧元:いい環境ですね。カブの上にうっすらピンク色のカビが生えていたものがありましたが、中は絶対美味しいはずですよ。なかなかああいう発酵はないですよね。
住みやすい環境だから、いい菌が住み込んでいるんですよ。この建物自体も古いからね。

岩佐:それもあると思います。自然環境が整っている森の中にあるので、もともとの環境がいいところと繋がっている。それが結構大きいと思います。

マッキー牧元:採れた食材を人間の知恵で活かし大切にするところは、長年やられてきた上での知識の集積だと感動しました。

―「里山十帖」(岩佐さん)にとって、「美食」とはどういうものを指すのでしょうか?

岩佐:美食って一言で言うのは難しいですよね。
「ガストロノミー」ということであれば、新しい技術や料理機器から作り出すものは、美食の一つの方向性で、人間の英知から生み出されたものの一つです。一方で、歴史や風土、文化を尊重して、そこにヒントを得て新しい料理をつくっていくことも美食。
「忘れ去られていた人間の知恵から生み出される美食」とでも言えばいいでしょうか。
うちは、そちら側を重視しているということです。

マッキー牧元:美食って、一つの側面として、非日常を体験したいという気持ちもあると思うんですよね。それが高級食材の場合もあるし、新しい技術によるものもある。現代社会では、昔は日常だったものでさえ非日常になっている。そういう時代には、昔の日常を発見する「非日常の楽しみ」っていうのも、新たな美食だと思うんですよね。

今は沢庵でさえ、ちゃんと発酵させたものを食べたことがない人の方が多い。
ここでいただく、山に自生している様々な食材や発酵食も、本当に体験できなくなっていることだと知ること、その美味しさを知ることが大切ですよね。日本人にとっては、沢庵ってこんなに美味しかったんだということが、心に染み入る忘れられない思い出になると思うんですよね。

岩佐:そうですね。沢庵がお好きな方は「これ、ちゃんとした沢庵だね。最近こういう沢庵食べてないね」って。分かる方には分かって、「おかわりある?」って方もいらっしゃって。

マッキー牧元:あとはやはり、お米の美味しさですね。普段は無理して食べないようにしていて、最後のご飯は軽く済ますのですが、ここでは朝も夜も、その箍を外さなければいけないですね。
この炊き立ての白いご飯をどうやって美味しく食べようかと。これはこれで食べようとか、最後はお湯をかけようとか、色々考えます。
朝ご飯の最後には、お釜にいっぱいついているおこげにお塩をパラパラっと振って、お湯を入れて全部こそぎ落として、グリグリグリっと混ぜる。それをまたお茶碗に入れて、おかゆか湯桶のようにして食べるのが幸せです。それくらい徹底的に食べ尽くしたくなるほど美味しいんですよ、ここのご飯は。

岩佐:ここは何しろ新潟県の南魚沼ですので。さらに南魚沼の中でも西山地域の、下流側から樺野沢・大沢・君沢、この三つの沢が一番美味しいと言われているんですよ。
何故かというと、宿の上にある当間山という山に広大なブナ林が広がっていまして、ブナ林がたくわえた水が沢の水として流れ出てくるんですね。西山側って活断層の地形なので、上空から見ると、ずっと活断層が一本たどっているんですよ。

活断層が切れた側、大沢の源流部に「里山十帖」は建っていて、延長線上にまっすぐ行くと中越地震のあった山古志なんですね。地層がいっぱいある活断層には色んなミネラルが含まれているんですけど、それが田んぼに落ちる特殊地形なので、この地域のお米は美味しいと言われているんです。
私たちが当初、体験型のレストランみたいなものをやりたいと思っていたのは、お米の味を知っていただいたり、地層を見ていただきたかったからで、お米は里山十帖の「メイン」なんです。

マッキー牧元:「里山十帖」に来るときは、糖質制限は絶対にやめた方がいい。糖質って脂質の高いものと一緒に摂るから太るんですよ。どんぶり飯みたいな。
ご飯と発酵食品と目刺しくらいだったら太らないですよ。ここの玄米も味わい深く、滅多に出会えない美味しさがあります。

岩佐:玄米はそのお米の味を一番左右するところで、精白しちゃえばある程度は美味しくなるんですけど、美味しい玄米はお米に力がないとダメですね。
糖質制限ダイエットも、お米と発酵食品というベースを保って、食べ過ぎなければ太らないですよ。箍を外して食べ過ぎれば太りますけど。
お米は繊維も多く、簡単に消化されないので、胃腸の調子を整える効果の方が強い。ご飯とおかずの食べ合わせで相乗効果があるので、ご飯だけが悪者という考えはそろそろやめていただいて、味を楽しんでいただければと思います。

十人十色の感じ方がある「里山十帖」

―マッキー牧元さんが「里山十帖」での滞在を通して印象に残っていることは?

マッキー牧元:普通の宿泊客として、私の場合は料理のウエイトが一番高いんですけど、それをちょっと脇に置いて言うと、一番気持ちよかったのは朝の時間です。
わざと朝6時くらいに起きたんですよ。お風呂に入ってから、山道を30分くらい散歩して戻ってきて、またお風呂に浸かり、朝ご飯を食べる。この宿は、そうしたいなと思わせてくれた。それがなんとも気持ちよかったですね。
普段二日酔いで朝風呂に入ることはあっても、朝早く起きてわざわざお風呂に入って散歩しようなんて思わないじゃないですか。
私ね、実は温泉に長く入っていられないたちなんです。大浴場とかに入ってもすぐ飽きちゃって。でも部屋のお風呂だと結構ゆっくり入っていられる。

岩佐:え~!そうなんですか。温泉というかお風呂に長くいられない?

マッキー牧元:一人で家のお風呂に入っているときは長くぼーっとしたりするんですけど、大浴場の広さが自分にそぐわないと思うんです。
前回はお部屋にお風呂がついていて、入りたいときに入れて、それが気持ちよかったなあ。この辺ちょっと歩いてみたいなと思ったときに、朝一番に起きて、お風呂に入って、散歩して、またお風呂に入ろうと思ったんですね。
自分を清々しい行動に走らせるってところが、よかったなあと思います。

岩佐:お食事を召し上がっていただいた後に、朝の散歩をして、お風呂に入るようなこと、私たちにとっては非常に嬉しい話です。
召し上がっていただいたお食事をベースに、自然がどうなっているんだろうとか、周りはどんな感じなんだろうとか、要は何かを体感したいと思って外に出られるわけじゃないですか。

マッキー牧元:そうですね。単純にちょっと散歩してみたいなって、上行ったり下行ったり、30分くらい歩いていたんです。そうすると、色んな川の音が聞こえたり、岩佐さんがおっしゃるように鳥の声が聞こえたり、畑みたいなものがあるのを見つけたり。

岩佐:それが一番嬉しいことです。
つまり、食を中心にして「自然環境をもっと知りたい」とか「鳥が鳴いているね」から、「あ、こんなもの生えてるね」とか「あ、なんか田んぼ綺麗だね」とか「この野菜のここ美味しそう」っていうことを肌で感じ取ってもらうのが重要で。

マッキー牧元:感じるままに過ごすのが、一番いいんじゃないですかね。

岩佐:おっしゃる通りで、自分の感性で過ごしていただければと思います。冬は発酵食が多いのですが、春は山菜、夏から秋は新潟の伝統野菜が料理の中心になります。
そして、もちろん食は「里山十帖」でいちばん大切にしているテーマですが、自然の中を歩いて自然から感じる方、田んぼのキラキラした風景で感動される方…古民家から感じる方、温泉から感じる方。色々なところから感じていただき、自分の感性に合わせてお過ごしいただければいいかな、と思っています。少しでも面白かったなと感じられたり、考えることがあれば、お越しいただいてよかったなと思いますし、何か一つでも提案できるようにしていきたいですね。

発酵部屋で目を輝かせ、一つ一つの食材に興味津々だったマッキー牧元さん。発酵という地域の知恵を活かし、自然の中に身を置き、何かを感じ取れる宿。岩佐氏が生み出した「里山十帖」は、いつかこんな暮らしがしてみたい…そう自然に言葉が漏れる、まさに唯一無二の存在でした。

***プロフィール***
マッキー牧元
1955年東京都生まれ。立教大学卒。㈱味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。日本国内、海外を問わず、年間600食ほど旺盛に食べ歩き、雑誌、テレビ、ラジオなどで食情報を発信。「味の手帖」、「朝日新聞WEB」、「MonoMaster」、「食楽」他連載多数。三越日本橋街大学講師、日本鍋奉行協会顧問。近著に 「どんな肉でもうまくする〜サカエヤ新保吉伸の全仕事」世界文化社刊がある。

岩佐十良
1967年東京都生まれ。武蔵野美術大学在学中の1989年にデザイン会社を創業し、のちに編集者に転身。2000 年に雑誌『自遊人』を創刊。2004年、拠点を東京から新潟・南魚沼に移転。2014年に宿をリアルメディアと定義した「里山十帖」を新潟県大沢山温泉に開業し、グッドデザイン賞BEST100に選出される。「箱根本箱」「講 大津百町」等の企画ディレクションも行う。

里山十帖

里山十帖

新潟県/越後湯沢

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更新日時2020.03.19 10:32

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