セレクション

『建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの』で考える、宿建築の美学

「有名建築家の作品を巡る旅」に関心が高まっている昨今。森美術館で開催されている『建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの』では、様々な日本建築を取り上げる中、現存する宿泊施設も紹介されています。本展の見どころと共に、「建築作品」としての「宿泊施設」の美学を読み解いていきましょう。

世界で人気の「日本の建築家」。その遺伝子を紐解く

北川原温 《ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ》 2015 ミラノ(イタリア)撮影:大野 繁

いま、世界が日本の建築に注目しています。丹下健三、谷口吉生、安藤忠雄、妹島和世など多くの日本人建築家たちが国際的に高い評価を得ているのは、古代からの豊かな伝統を礎とした日本の現代建築が、他に類を見ない独創的な発想と表現を内包しているからではないでしょうか。

『建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの』は、縄文の住居から最新の現代建築のプロジェクトまで 100 のプロジェクト、総数 400 点を超えるスケールで展示されています。

展示は「可能性としての木造」「超越する美学」「安らかなる屋根」「建築としての工芸」「連なる空間」「開かれた折衷」「集まって生きる形」「発見された日本」「共生する自然」という9つの特質で章を構成。建築家や年代という分類ではなく、伝統建築の知恵や美意識と密着した建築哲学の変遷を体系的に取り上げています。

「日本の建築」に潜む「アイデンティティ」としての遺伝子は、海外に建設された日本人建築家の作品にも見出され、未来の日本像を担っていくと言えるでしょう。

伝千利休 《待庵》安土桃山時代(16世紀)/2018年(原寸再現)制作:ものつくり大学※参考図版

会場には、千利休作と伝えられ、現存する日本最古の茶室建築で京都・妙喜庵にある国宝《待庵》の原寸が再現されています。中に入ると、ここが六本木ヒルズの53階であることを一瞬忘れてしまうような悟りの世界を味わうことができるでしょう。

丹下健三が桂離宮などの日本の古建築を再解釈して設計した《自邸》(現存せず)。1/3スケールで再現された巨大模型は見どころの一つ。ル・コルビュジエのサヴォア邸を想起させつつ、木造建築ならではの温かみを感じることができます。

黒川紀章の《中銀カプセルタワー》をはじめとする名建築をレーザーファイバーで再現した齋藤精一が率いるライゾマティクス・アーキテクチャーの体験型新作インスタレーションは必見。最新のテクノロジーを駆使した展示の数々は、建築ファンならずとも心を打つものがあるのではないでしょうか。

有名建築家が考える宿泊施設での「空間表現」

プレス説明会にて 倉方 俊輔氏により説明された《旧帝国ホテル・ライト館》

「建築」という観点で宿泊施設を捉えると、機能性はもちろん、人同士が出会い、結び付き、寛ぎ、休むという居住空間とも公共空間とも異なる場の在り方が求められます。建築家は芸術性を視野に入れながら、どのように解答を引き出したのか。今回取り上げられた宿泊施設を通して考えてみましょう。

吉田五十八《ロイヤルホテル(現リーガロイヤルホテル)メインラウンジ》

吉田五十八 《ロイヤルホテル メインラウンジ》1973年 大阪 画像提供:株式会社竹中工務店

「リーガロイヤルホテル」の前身「新大阪ホテル」が誕生したのは1935年1月16日。大阪政財界の「賓客のための近代的ホテルを大阪に」という要望により生まれました。現存するリーガロイヤルホテル(旧 ロイヤルホテル)は、吉田五十八が意匠設計を担当。メインラウンジは、日本庭園から落ちる滝を引き込むよう、ロビー床に曲水のせせらぎを大胆に配置。

吉田五十八 《ロイヤルホテル メインラウンジ》 展示風景

「紫雲」を表現した幻想的なシャンデリアと、大和絵の絵巻物に見る川の流れという立体的な空間表現。和洋折衷の文化融合により、静けさと美しさに包まれた出会いのスペースを表現しています。

リーガロイヤルホテル

大阪府/中之島

村野藤吾《佳水園 (ウェスティン都ホテル京都)》

村野藤吾《佳水園 (ウェスティン都ホテル京都)》1959年 京都 画像提供:ウェスティン都ホテル京都

東山の傾斜地に建てられた「ウェスティン都ホテル京都」。村野藤吾設計の数寄屋風別館「佳水園」は、戦後の数寄屋造り建築の傑作として高い評価を受けています。中庭の「白砂の中庭」も、醍醐三宝院の庭を模して村野藤吾氏がデザイン。7代目小川治兵衛の長男白楊により作庭された「植治の庭」は、1994 年に京都市文化財(名勝)に登録されています。

村野藤吾《佳水園 (ウェスティン都ホテル京都)》 展示風景

それぞれの部屋によって変化のある20の客室に統一感を持たせているのが、銅板葺きの薄い屋根。幾重に重なる姿は美しいリズムを奏で、背後に迫る東山の自然がより引き立ちます。

ウェスティン都ホテル京都

京都府/東山けあげ

フランク・ロイド・ライト《帝国ホテル 旧本館・ライト館》

フランク・ロイド・ライト 《帝国ホテル(正面中央部入口)》1923年 東京 写真提供:帝国ホテル

1923年に完成した帝国ホテル2代目本館、通称「ライト館」。近代建築家・三大巨匠のひとりと呼ばれるフランク・ロイド・ライトが、幾何学的な装飾と流れるような空間構成を手掛けました。

フランク・ロイド・ライト 《帝国ホテル(正面中央部入口)》展示風景

大正から昭和にかけて、ジャズやダンス、演劇など、社交の中心としてエンターテインメント文化の発信地となり、多くの方で賑わいを見せたそう。現在、本館1階、正面ロビーには、2代目本館「ライト館」ロビーのデザインをもとに製作された大谷石のレリーフが飾られ、またロビーの一角にはその歴史を展示するコーナーが設置されています。海外からの賓客をお迎えする品格と機能美は、建て替えられた今もなお引き継がれています。

帝国ホテル 東京

東京都/日比谷

安藤忠雄 《水の教会(星野リゾート トマム)》

安藤忠雄 《水の教会(星野リゾート トマム)》1988年 北海道 画像提供:星野リゾート トマム

北海道最大級の滞在型リゾート「星野リゾート トマム」にある「水の教会」は、安藤忠雄の建築を特徴づける名作。幾何学的構成と打ち放しコンクリート、水面から自然を取り込み「水・光・緑・風」を意識させる空間設計が、静寂さを際立たせます。

安藤忠雄 《水の教会(星野リゾート トマム)》展示風景

「あるがままの自然を、人間の意志によって切り取った空間こそ『聖なる空間』である」というコンセプトは、人工的な要素で自然を意図的に分断することである種の緊張感を生み、神秘的な世界を作り上げています。

星野リゾート リゾナーレトマム

北海道/トマム

人が集い、休息する場所として機能する宿泊施設は、時代の空気感や流行を読み取り、切り取るドラマティックな存在といえるでしょう。いつまでも語り継ぎたい匠の技が光る空間を、実際に訪れて体感できることも魅力の一つです。

海外でも大きな影響を与える存在となった日本建築。意匠や構成をそぎ落とし「侘び」の概念を木で表現する「伝統」。そして20世紀以降ヨーロッパの石の建造物に学び、さらに現代の風潮を取り込む「革新性」。現代建築の本質を、貴重な資料や模型を通じ迫ってみてはいかがでしょうか。

六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
会期:2018月4日25日(水)~ 9月17日(月)
詳細:www.mori.art.museum/

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