足元の岩の間からこんこんと湧く湯。その湯を求めて全国から温泉ファンが集まる宿があります。それが岡山県奥津温泉にある「登録有形文化財の宿 名泉鍵湯 奥津荘」。
奥津温泉は八雲朝廷時代、大国主命の名を受けて、少彦名命が巡撫使として諸国を巡視した際に温泉を発見したという文献が残ります。この地のお殿様、津山城主がここに専用の湯治場を設けたと伝えられていますが、実はその湯治場こそ、「奥津荘」一番の人気を誇る名湯「鍵湯」。詳しくは後述することにして、まずは奥津荘のある場所をご紹介しましょう。

「奥津荘」は神戸からは車で2時間、岡山駅からだと約1時間40分、中国山地の山々に囲まれて佇む宿。ちょうど奥津橋の袂にあり、吉井川に沿うように建てられています。
玄関は唐破風の堂々たる意匠。昭和2年の建築当時のままだそうで長い年月を積み重ねてきた風格が漂います。

館内は2004年にリニューアルされています。出迎えてくれるのが世界的版画作家である棟方志功の作品の数々。棟方は、昭和22年から28年にかけて度々奥津を訪れており、「奥津荘」は棟方の奥津での常宿でした。

木造りの純和風建築の宿と、簡潔でダイナミックな棟方の作風がよくマッチして、館内は落ち着く雰囲気。特にノスタルジーが好きな人にはたまらない空間となっています。
加温、加水、循環一切無しの、自家源泉かけ流し

さて、荷ほどきは後にして、早速、温泉を満喫しましょう。
前段でもご紹介した通り、この宿の温泉は湯船の真下、つまり足元から湧く温泉。浴槽を泉源の真上に設けたため、足元からぶくぶく、ぽこぽこ…。湧出量は毎分247ℓ、湯温42度。実に何の手を加えなくても、湧きたての新鮮な温泉がいつでも楽しめるのです。

なかでも人気は「鍵湯」と、立ったまま入る「立湯」。「鍵湯」はその昔、お殿様専用の湯治場だったため、鍵をかけて管理したことに由来しています。
どちらも吉井川によって徐々に削られた川底を活かした湯とあって、温泉ファン垂涎の的。加温も加水も循環も無し。これほどピュアな温泉を楽しめるところは、温泉大国の日本といえどもそう多くはないでしょう。

ほかに、吉井川の流れを見ながら湯に浸かれる「川の湯」と、ステンドグラスから柔らかな光が入る「泉の湯」の2つの貸切風呂があって、こちらも予約無しで入浴可能です。
美作という土地の魅力を味わう食事

部屋は全8室。露天風呂付きの離れ、川の流れを眼下に眺めるマッサージチェア付きの和室など、それぞれ表情が異なりますが、渓流沿いマッサージチェア付和モダン洋室などの2室はベッドを備えた洋室タイプ。純和風が好みでも、寝る時だけはベッドで…という人はこちらをどうぞ。

食事は旬と地元美作にこだわった和食。食材をひとつあげるとしたら牛肉でしょう。もともと地元には薬の代わりに牛肉を食べる「養生食い」という風習が残っており、牛肉を使った郷土料理が伝わっているとか。牛骨の周りに付いた肉を削いで食べる「そずり鍋」もそのひとつ。地元のブランド牛・信州牛のしゃぶしゃぶも通年でいただけます。

そう、忘れていましたが、この宿では肉質が柔らかくなるからとしゃぶしゃぶにも源泉を使用。契約農家で育てたコシヒカリを炊くのももちろん源泉。さまざまな料理にふんだんに源泉が使われています。

美作三湯に選ばれている奥津温泉。浸かって、食べて、温泉をとことん満喫できる「奥津荘」。全国から温泉ファンが駆けつけるのも納得です。












