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【極みの美食対談】作家・柏井 壽 ×「美山荘」中東 久人 :「美山荘」で出会う季節の感性
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【極みの美食対談】作家・柏井 壽 ×「美山荘」中東 久人 :「美山荘」で出会う季節の感性 美山荘(京都府/洛北 花脊)

一皿の料理に細部にまでこだわり尽くし、究極の美食体験をする宿――。京都の奥座敷、花脊の里にある「美山荘」は日本を代表する「極みの美食宿」の一つ。今回は特別企画として、日本の宿を知り尽くした作家・柏井 壽氏と、「美山荘」4代目当主・中東 久人氏の対談が実現しました。「美山荘」ならではの料理の魅力と、秘境に佇む日本旅館の真髄とは?

静謐な空気に包まれた山の麓に佇む名宿「美山荘」が大事にする山の香りと日本の味

柏井 壽(以下柏井):
僕と「美山荘」の出会いは、30年前にさかのぼります。淡交社から先代がお書きになった『京 花背 摘草料理』という本が出て、こんな料理があるのかと非常に衝撃を受けました。ただ、なかなか行く機会がなくて。その5年後に柴田書店から『雪峰花譜』という本が出て、料理はもちろん大女将の「花」が結構重要な役割を果たしていると。これはいくら遠くても行かなきゃいけない、とお邪魔したのが最初です。

もう衝撃的な出会いでした。田舎っぽい料理かと思ったら非常に洗練された料理で、こんなやり方が世の中にあるんだなって、びっくりしました。
今回の滞在で4回目になりますが、極端に言うと何も変わっていない。逆に素晴らしいなと思うんですよ。基本的にお客さんに出す料理は、器の空気も含めて「変えない」っていう強さにもう感動しますね。

中東 久人(以下中東):先生がおっしゃった通り、変えるのは表面的なところではないと思うんですね。時代は移り変わり、お客様のニーズも多少なりとも変わります。でもお客様は大悲山らしさ、花脊らしさ、「美山荘」らしさを感じたいと期待しているから、変えてしまうとげんなりしてしまうと思ってまして。
先代が作り上げてきたベースに、様々な人が「美山荘」の魅力を感じてくれていました。
「美山荘」の摘草料理は当時から確立されたもので、私は一度分解し今の料理へ再構築しました。変化というよりも進化させていきたいという思いが強いので、先生に変わってないとおっしゃっていただいて「ああ良かった」と思います。

柏井:
僕が「30年前と変わってない」と思ったということは、よっぽど変えてるんですよね。受け取る側は変わってないと感じても、味付けとか日々色々研究されて変えてらっしゃると思います。それを感じさせないところがいいと思うんだよね。古臭くなってはいけないんですよ。

―昨日お食事された中で、どういったものが印象に残っていますか?

柏井:何かにつけて大仰にしない「さりげなさ」。昨日は熊肉が出たんですけど、「どうですか! 熊肉ですよ! どうだ!」って感じではなく、さりげなく「今日は熊肉です」と出てくる感じ。しし鍋もさっと出てきて、美味しいなぁと。料理人さんにとっても「どうだ!」ってやる方が楽なんですよ。スッと出して「なんだこれは」って言われる方が怖い。
器も華美になりすぎない、いい器なんですよ。特に今回感じたのは、比較的年代の浅い古伊万里がこの里ならではの料理によく合っていて、江戸時代の末期ごろに来たような気持ちになりました。決して初期伊万里じゃないところがいいなぁと思いますね。

中東:先生がおっしゃられた「さりげなさ」ですが、私自身そんなに「どうだ!」って感じを出すのは好きじゃないので、こちらの考え方は押し付けないですね。お客様に色々なことを感じてもらえたらいいなと。お客様にとって熊肉とかしし鍋は特別でも、我々にとってはこの時期が来たら出てくるもの。レストランは大人が食事の時間を楽しむところで、我々としてはできることを精一杯にやる。よくうちの大女将が言うように、気遣いすれども、お構いなしという。

柏井:
むやみに押し付けたりしない、それは本当によく伝わります。こっちが欲しくなった時に、息が合うと「おかわりお持ちしましょうね」という阿吽の呼吸。これは普段からやっていないとできない。
あと、今でこそ肉・魚・野菜と並びますけど、「美山荘」開業以前・以後で全然違うと。「美山荘」が出てくる前の野菜は、魚や肉よりも下のランク。
野菜や山菜、きのことかも含めて、野に生えているものを料理の素材としてこれだけ格上げしたのは多分先代の功績、プラスそれを長く続けられている方の思いが、世界中に続いているような気がする。世の中が野菜に注目し始めた風潮を考えると、「この宿が原点か」っていう気がしますね。

中東:月並みですが、調理の段階で想いを乗せる、それが思いだと思うんですね。我々は、とにかく大悲山の「山の香り」をお客様に提供していきたいというのがまず大きな括りで、どうしたらそれができるかを常に考えています。手っ取り早いのは周辺に生息しているものを使うことですが、どれでもいいわけではないんです。群生している中でも輝いているものはあって、そういうのを摘む。
採取する野草を「こういったものを食べてもらいたい、じゃあこれ使おう」って選んでいく、「狩る」じゃないんですよ。お客さんと食材に対する思いを料理に乗せることによって、テクニックが出てくるんです。

この野菜、野草をどうやったら美味しくできるだろうと考えると、成分の考慮が必要になります。シュウ酸が沢山あるから長めに湯がくとか、すぐ湯がけてしまうからこれくらいの時間にしようとか、食材に対するテクニックが生まれてくる。下準備の段階でそこまでできていれば、ほとんど間違いないですね。あとは気持ちが延長線上にあるという感じで。最初の部分って大切ですよ。

我々も色々なところに行って、食材を摘んでくるのが楽しみですし、料理や演出のヒントができてきます。盛り付けも自然のように盛り付ける演出をするというか、そこの文化にいないとわからないんですね。ですから、時間があればなるべくフィールドに出るようにしています。
近所の人たち、お年寄りの方たちが教えてくださるんですよ。地元の人たちとのコミュニケーションも、「美山荘」の料理を作り出しています。ベースは、もともとこの土地にあった料理なんです。

柏井:今朝は雪がうっすら積もってまして、「大悲山のこの辺の12月って、これから雪が増えてくるんでしょう。大変だろうなぁ」と思いながら、でもその中でいただく料理の季節の良さをものすごく感じました。日本の季節は3月で始まって2月で終わると、本当にそう思いました。あと2か月冬が続いて、3月に山菜が顔を出す喜び。季節に応じた人間の心理とシンクロして料理が出てくるのは、ここならではでしょう。周りの空気を含めた季節感を出すとなると、「美山荘」以外にない。ここで暮らしてらっしゃる空気感を僕らも垣間見る。

中東:旬は美味しさだけでなく、食材として一番いい状態の時で、食べることによって人間の体に対しても良い影響があると思います。
このあたりの食材はお金を出しても買えないものばかりで、その時にあるものしか使いません。12月頭になって、子持ち鮎。鮎は夏のものみたいな感じがするんですけども。

柏井:おなかがぷっくり膨れたオチアユは絶品でした。
何とか季節を先取りして見せようとする、今の割烹屋さんとは全然違う楽しみ。
昨日の最後はゴボウと油揚げのごはんだったけど、非常に素朴でうまかったね。おにぎりにして部屋まで持ってきてもらったくらい美味しかった。

中東:
最後のごはんを素朴なものにするのは、結構意識していて。最後ってほっこりしたいんですよ。お漬物も食べていただきたいです。最後にごはんとお漬物とお味噌汁をいただくのは、我々日本人にとって良い食事スタイルなんですよね。
派手なものを出せばお客様は喜んでくれるけれど、心の中では喜んでいないかもしれない。ここで料理屋をやるからには、本当に日本人好みというか、ほっこりする、しっくりくるように毎日頑張っているような感じかもしれません。

取り寄せられない「生き方のセンス」を宿で感じる

―柏井先生は各地の旅館に泊まられる、いわば「宿のプロ」ですが、宿としてどんなところに魅力を感じましたか?

柏井:いつも感心するのが、宿を磨き込んでいることです。ガラスを見ても、どこにも曇りがないのがわかるでしょう。この宿に来ると窓が気持ちいいの。風は強いし落ち葉もあるし、どうやってるんだろう? って。

お部屋一つとっても、これだけ居心地のいい部屋ってそうないんですよ。「山椒の間」って小さいからそう名付けたのかもしれないですけど、あれほど居場所がきちっと決まるところもないね。非常にコンパクトな造りですけど、居心地がとってもいい。鍵をかけなくてもいいくらいの安心感がある。
変わらないようでいて、設備の快適性がどんどん増している。今回はWi-Fiが入っていました。テレビは全然いらないけども、Wi-Fiがあれば仕事ができるし、海外の人も助かるからちゃんと取り入れている。泊まる側としては設備が新しいと気持ちがいい。

あとは「花」がこれだけ重要な役割を果たしている旅館は、なかなかないですよね。
枝の伸ばし方から山の中にいるような感じなんだけど、この空間で食事をするとより美味しいし居心地がいい。本当に、わざわざここに来ないと得られないわけですよ。生き方のセンスは取り寄せできないから。
「美山荘」での過ごし方は、「第六感」も含めて、五感を研ぎ澄ましてというんだけど、研ぎ澄まさざるを得ないんですよ。ボーっとしていると何も感じられない。ちょっとした風やせせらぎの音に、こっちがどんどんシャープになっていく。そうすると色々なものを受け止めやすいでしょ? だから土地の力が大きいなというのはありますね。
余計な化学反応はいらずにストーリーを感じとる、それが「美山荘」での過ごし方なんでしょうね。

中東:
確かに土地の力というのはあると思います。人間は自然に勝てませんし、自然に委ねることによって感覚が研ぎ澄まされ、感性となって体の中に入ってくるんでしょう。
もともとこの宿は、なぜここに大悲山や峰定寺が建てられたか、に通じてくると思います。峰定寺という本山修験宗、修験のためのお寺を建てた理由が、空気感とか厳しさから伝わってきて、この旅館をやる上で一番最初に見なくちゃいけないのはそこだなと思いますね。
今、花脊という土地を豊かにしていきたいと、「花脊地域振興協議会」という組織を立ち上げています。花脊街道の別所側にはカーブごとに大きな山桜があって、数えたら花脊峠だけで30本くらいありました。戦後の市の植林によって隠れてしまっているんですが、山桜を出すと素敵な街道になるし、花脊らしさも維持できるので一生懸命働きかけています。

柏井:
自然についても、この景色はここでしか出会えない。だからこそ、京都からこれだけ車で時間をかけて来る価値がありますよね。変に便利にならない方がいいと思うんだけどね。ここまでの道のりも、僕は今のままでいいと思う。

―対談を振り返ってみて、柏井先生、いかがでしたか?

柏井:
スタッフお一人お一人の心遣いや動きを見ていると、つくづく宿を続けていくのは大変だなと実感しました。
また、今回は12月頭という、なかなか普段は旅行をしない時期に泊めていただいて、日本旅館の季節の重要性に対しての結論を持ちましたね。日本の季節は春から始まり、今は終わり間際で、散り際の美学みたいなものがある。寂寞とした空気の中で宿にいると、自分だけがほっとできているというか、有難い。それを見守ってくださる宿の方々。旅籠の存在は多分それが原点で、人間が旅をした時に、見守られていると感じるのが旅籠の役割だと。そこに美味しい料理があり、良いお風呂があればいいんだけど、それ以上に人の温もりというか、気遣いがある。それが全てかもしれないですね。

また、客人側の経験や年齢も重要ですね。25年前に来た時と比べ、自分が少し成長していると感じ方が全然違う。若い時ってあら捜しをしてしまうんですよね。でも今は、逆に良いところを見つけようとするから、余計に楽しめる。
中東さん自身が年齢を重ねてこられたことによる、味の深みも出てくるだろうし。色々な意味で重ねる、というのは大事なことだと思います。

中東:
あら捜しをしないなんて、本当に、最高に素晴らしいお客様ですね。それは冗談ですが、こうして我々が常にやっていることをそのように言っていただくと、この宿ならではの良さを再認識します。我々も毎日いるとあまり意識しないけれど、お客様に言われると背筋が伸びる感じがしますね。
これからも、もっともっとさりげないおもてなしをしたいですね。

柏井先生曰く「季節とシンクロする料理」、それが「美山荘」に身を寄せて楽しむ美食体験の醍醐味かもしれません。日本旅館の美学を五感で悟る旅の体験は、あなたの心をさらに豊かにしてくれることでしょう。

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【プロフィール】
柏井 壽
1952年京都市生まれ。1976年大阪歯科大学卒業。京都市北区にて歯科医院を開業。
京都関連、食関連、旅関連のエッセイを多数執筆。
代表作は「おひとり京都の愉しみ(光文社新書)」「日本百名宿(光文社文庫)」。
食をテーマにした小説「鴨川食堂(小学館)」「祇園白川小堀商店(新潮社)」をシリーズ刊行中。
「日本おいしい小説大賞」の選考委員も務める。

中東 久人
高校卒業後フランスに渡り、パリの大学にてホテル経営学を学ぶ。
その後フランス3つ星・2つ星レストランにおいてギャルソンとして従事し、現場でのサービスを学ぶ。
帰国後、金沢〝つる幸″にて、日本料理を学び、1995年に美山荘へもどる。
海外でのシェフとのコラボや、日本料理の普及活動を行い、現在は、地元・花脊の地域活性のプロジェクトリーダーして活動中。

美山荘

美山荘

京都府/洛北 花脊

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更新日時2020.03.06 11:43

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