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【インタビュー】「陶泉 御所坊」「有馬山叢 御所別墅」金井啓修氏『有馬の魅力を発掘し、面白いを満たす温泉地に』
インタビュー

【インタビュー】「陶泉 御所坊」「有馬山叢 御所別墅」金井啓修氏『有馬の魅力を発掘し、面白いを満たす温泉地に』 有馬山叢 御所別墅(兵庫県/有馬温泉)

関西有数の温泉地として、国内外から多くの観光客でにぎわう街、有馬。その魅力を日本だけでなく世界に発信しているのが、「陶泉 御所坊」第15代主人の金井啓修氏です。今回は、同グループの宿「有馬山叢 御所別墅」にて、宿づくりの着想と、「有馬を旅する楽しさ」についてお話を伺いました。

◆有馬の街に若い客を呼び込んだ立役者が作る小さな宿

―有馬には様々な宿がありますが、「陶泉 御所坊」「有馬山叢 御所別墅」ともに、客室数を絞った小さなお宿ですね。小さな宿作りを始めたきっかけは?

1995年の阪神淡路大震災が起きた頃、全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)の兵庫県の県部長をしていて、集客について考えていました。
「小さくても魅力的な宿がいいのでは」という考え方をする人たちで「12の宿」(編集部注:現在の『世界宿文化研究学会』)ができました。座長を務めた京都の「要庵 西富家」の主人と、何組かの宿を集め、小規模宿の研究会をしたんです。
鉄筋の大型旅館が全盛期の時代に、あえて小さな宿の建物を残して金額を上げ、稼働率を上げたやり方は未来的だったと思います。

―歴史ある旅館の客室を絞って規模を小さくした、特徴的な宿ですね。「御所坊」改修を始めた経緯を教えてください。

僕はもともと絵描きかデザイナーになりたかったんです。当時、絵を学ぶには京都芸大しかなくて、僕より絵の上手いいとこが2浪しても入れない。それでも子供の頃からパリに行きたかったので、その手段として料理を勉強しました。
いとこは、大学卒業後サントリーに入社し、一躍トップデザイナーになったんです。彼とは、いつもデザインについて話し合っていましたね。
1986年頃に有馬で仕事をすることになって、街づくりの手始めに温泉地に会員制のテニスクラブ「サニーサイドアップテニスクラブ」を作りました。
ちょうど、おやじギャルとか縄のれんを好む女性が温泉地にやってくる時代。若い子がきたら、温泉にも入るしお酒も飲むだろうと、通り沿いの蔵を改装して若者向けの居酒屋も開いて。料理の後輩がケーキを勉強して有馬に帰ってきたので、喫茶店の一つもほしいなと思い、祖父の家を改装して始めたのが「カフェドボウ」です。

―さきほど有馬を散策したときに伺いまして、居心地の良さに長居してしまいました。

当時も有馬の温泉地におしゃれな喫茶店があると、神戸で有名になったほどで。こんな素晴らしい喫茶店をやっているなら、旅館も素晴らしいはずだと取材に来てもらったんですが、旅館自体は特に何もしていなかった。
これはあかんと「御所坊改造計画」を始めました。「ジュリアナ東京」の照明を担当したヤマギワさんとか、神戸の東亞特殊電機(TOA株式会社)さんなど、当時の神戸で最先端の技術をもつ方々に声をかけました。宿の基本構想を伝えると、「金井さんの考えていることは合理的でいいけど、御所坊は伝統的な旅館で『格』がある。その『格』を上げることも必要ではないか」と言われたんです。

―「格」という意味では、「御所坊」グループは綿貫宏介さんのデザインによって、全体的な世界観が統一されています。綿貫さんとの出会いは?

僕は漢詩の世界をイメージした、モノクロ写真の似合う旅館をつくりたかった。扁額に漢詩が書いてあって、山水画がかかっているような。漢詩でイメージソングをつくれる人はいないかと探していたら、知り合いの写真家に、良い先生がいるから先生の茶室に案内してあげると誘われて。

行ってみると、想像していた茶室とは全然違いました。
「胡坐かけぇ」と言って出されたのは煎茶で。お作法とか、器の蘊蓄とかではなくて。「面白いなぁ、この人とならすごいものができるはず」って思ったんです。
旅館の改装工事が始まる頃、綿貫先生に有馬に来てもらいました。
現地で設計図を見ながら説明していると「ところで、一寸浮かんだんだけども紙はあるかね」と言うなり、万年筆で「雲山尋道 有馬勝
翠巒聴泉 考槃境
盡日陶陶 物外遊
塵外幽湯 御所坊」と漢文を書くんですよ。
その意味は、「雲を頂いた六甲を越えて有馬温泉へ
緑の山と清流のせせらぎが聞こえてくる中国の賢人が瞑想にむけたような所
一日中ゆっくり物事を忘れて過ごす
都会から少し離れた温泉地の御所坊」というものです。
凄いなぁって「カフェドボウ」で見せていたら、その場にいた煎餅屋の息子が「その方って無汸庵ちゃいます? 今、和菓子業界で有名な人ですよ!」って。
そこで初めて有名な人だと知ったんです。

最初は、浴衣とか箸置きのデザインからお願いして、先生からも15年計画でやっていこうと。旅館であれば、平面ではなく、立体的な表現ができるから面白いと周りに語っているそうです。

―まさに長年のご縁でできた一つの作品が、「御所坊」なんですね。

先生の字は特徴的なデザインで、誰が描いたかすぐに分かる。先生は、人数が少なくても本質を理解する人がいればいいという考えで、デザインをされています。
「有馬山叢 御所別墅」の壁には、「我を知るものこれまた永遠なり」という甲骨文字の書があって。「時代を超越して、こんなに素敵な人がいたことを覚えてもらえることが永遠だ」という意味ですが、宿もまさにそのような世界観ですね。

―「有馬山叢 御所別墅」は全室離れの宿として人気ですが、かつては外国人専用のリゾート街だったそうですね。

もともとは「清水寺」というお寺で、明治の開国期に神戸に居留地ができ始めた頃、「清水ホテル」という名で外国人専用ホテルを開業し、栄えたそうです。
「陶泉 御所坊」の先々代が、「清水寺」に祀られていた千手観音像のお守りを引き受けたご縁もあって、この地に宿をつくりました。

「清水ホテル」の写真は今でも残っていて、「有馬山叢 御所別墅」は当時を踏襲して建ててあるんです。「陶泉 御所坊」や「ホテル花小宿」も木造建築でしたし、高めの天井や遠近法など木造建築の技法を駆使しています。

―宿ならではの仕掛けとして、全室に「サーマルルーム」があるのも個性的で面白いですよね。

このアイデアは、15年くらい前にヨーロッパの混浴の浴場視察に行ったことがきっかけ。オーストリアのチロル地方などには、「サーマルルーム」というものがあって、バスローブを着て男女一緒に入るんです。人間の体温と同じ温度帯の室内に1時間くらい入ると、免疫力がアップするということで、ヨーロッパの豪華客船にも設置されています。
露天風呂に入るとしても良くて10分程度、だったらプライベートな「サーマルルーム」をつくってはどうかと。寒い時に冷え性の人が入ると、一晩すごく快適に眠れるとご感想をいただきます。

―確かに、露天風呂には長い時間入っていられないですものね。昨日ぐっすり眠れたのは、サーマルルームのおかげかもしれないです。

日本人にとっての温泉は、42度前後のお湯に浸かるもの。寒い時にお風呂に入っても、頭は冷えているので、血流が良くなりすぎて危ない時もあります。
一方、外国では温度や深さ、水圧の違いなどお風呂の入り方も様々で、照明や音楽を使って色々な楽しみ方をしています。そう考えたら、日本は遅れているなと思って。

◆知的好奇心を満たす「面白さ」の種を、地域に蒔いていく

―人気温泉地の一つでもある有馬温泉ですが、有馬ならではの魅力とはどんなところでしょうか?

1km×1km×1kmの狭いエリアに色々なものが詰まっている、幕の内弁当みたいな場所ですね。旅館も商店も、いいお店が一つずつ揃う高級な幕の内弁当を目指したいです。
「陶泉 御所坊」の周辺には、木造3階建ての建物が残っています。木造3階建てといえば昔の「富の象徴」なので、フォトスポットにして活性化しようと考えています。有馬のイメージを刷新して、盛り上がれば外資も注目するでしょうし。様々な宿がある自由な街にしたいですね。

都市計画は、色々な人が絡んできます。有馬にも観光客が増えることを良しとしない人もいるので、アイデアを実行して、利益を出して、そういった人たちをいかに味方にするか。
縁結びの神社に中国人が来るようになって、お賽銭が増えたので4か国語のおみくじとハートの絵馬をつくったら、たちまち年間50万円くらい増収しました。
観光客が来たら暮らしの質が上がる、だから協力しようと。「風が吹けば桶屋が儲かる式」でやるのがコツですね。
僕の趣味は「ジョセイ」。隠語でもあるんですけど、申請書や報告書をたくさん書いて、この4~5年で有馬の助成金を2~3億ほど獲得しました。

―宿を経営しながら細かい事務作業も地道にされて、有馬全体の魅力を変えようと動かれているのが、金井さんのすごいところだなと思います。その原動力は?

建築を考えるのも、インテリアデザインより店舗設計、さらに舞台設計、都市計画を考えるほうが難しいけど、面白いからですね。面白いことを提案して、上手くいったらめちゃくちゃ気持ちがいい。でも、成功したら大抵は冒険しなくなって、発展が止まる。だから、「人を引き寄せる力」が必要です。
有馬温泉の湯口を管理する家系であることが誇りであり、アイデンティティーでもある。分かっているだけで15代という責任は感じますね。

―これから、どんなことに取り組まれる予定ですか?

美人が立つと、お湯が嫉妬して噴き出すという言い伝えがある「妬(うわなり)泉源」の近くには、祠があるんです。そこにランダムで湯気が出るような装置を置いて、新たな観光スポットをつくろうと思っています。
あとは、中国にある音声アプリの会社と、有馬を周遊しながら聞ける音声ガイドの計画をしています。真の歴史を知るために、唐時代の文化財が残る奈良に通う中国人は多いので、有馬と中国の所縁のある部分にスポットをあてる予定です。海外のお客様を狙うなら、ターゲットを絞ることが今後は大事になってくるでしょうね。

―プライベートな時間がなさそうな印象ですが、「心の贅沢」を感じるのはどんな時ですか。

知的好奇心を満足させるのが、「心の贅沢」ですね。全く知らないことを知るのは楽しいです。ヨーロッパの人は、知的好奇心を満足させるために旅をすると聞きますが、観光にも知れば知るほど深くなるような仕掛けが必要なのかなぁと思いますね。

宿のオーナーのファンが多い金井さん。今回、ぜひインタビューを!というリクエストから実現しました。有馬が風情を残しつつ魅力的な場所に育っているのは、時代の流れを読む人の存在が大きい故と感じました。東京から約3時間半で着く魅力的な街に、あなたも出掛けてみませんか。

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金井啓修
1955年生まれ。
日本一の歴史を誇る有馬温泉で、一番歴史のある御所坊の15代目主人。
好きな飲料、国産ビール
趣味、ジョセイ、家庭菜園、モノづくり
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有馬山叢 御所別墅

有馬山叢 御所別墅

兵庫県/有馬温泉

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