この度「一休コンシェルジュ」では、日本各地の旅館を泊まり歩き「日本 味の宿」の顧問を務める旅館のエキスパート・柏井壽氏と、「庭園の宿 石亭」の主人・上野純一氏にインタビューを実施。「日本 味の宿」に加盟する宿をはじめ「庭園の宿 石亭」の魅力、これからの旅トレンドなど、多岐にわたってお話を伺いました。
目 次
国内でも厳選された宿が集った「日本 味の宿」の魅力とは

「日本 味の宿(https://yado-resort.com/ja/)」は、旅館のエキスパート・柏井壽氏を中心に“主人、女将の顔が見える宿”というコンセプトに賛同した宿が集い、2013年9月に発足したグループ。「日本 味の宿」には、「味わい」の魅力を「食」「自然」「空間」といった形で表現する宿が加盟しています。主人や女将はそれぞれの「味わい」の魅力を守り続け、磨きを掛けており、その土地でしか味わえない特別な体験が叶います。

一休コンシェルジュでは、2019年に「日本旅館のエキスパート・柏井壽氏に聞く、上質な宿の条件(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/concierge/30299)」、2022年に「旅のプロ・柏井壽氏に聞く、大人だからできる旅の醍醐味(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/concierge/74371)」、「【対談】作家・柏井壽氏×「あらや滔々庵」18代目・永井隆幸氏が語る、日本旅館ならではの魅力(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/concierge/81387)という記事で柏井氏にインタビューをさせていただきました。
第4弾となる今回は、広島に佇む「庭園の宿 石亭」を舞台に対談を実施。宿の魅力から、コロナ禍を経て変わりゆく旅のトレンドについてまで多岐にわたって伺いました。
「日本 味の宿」に加盟する宿の条件とは
―現在「日本 味の宿」には、全国34の加盟施設がございます。その加盟条件や共通する特徴を教えていただけますか?

柏井壽氏(以下柏井):加盟条件はただ一つ、私が好きな宿かどうかです。地域の制限などは一切ありませんが、小規模な宿が多いですね。最も重視しているのは、ご主人や女将さんの顔がはっきりと見える宿であること。そして「味の宿」と名乗る以上、美味しい料理が出てくるのは必須です。ただし、ここでいう「味」とは料理の味だけではなく、人間味や宿の味わいなど、様々な意味を含んでいます。また「宿とはどうなるべきか」を問い続けているという部分も大切な要素の一つです。
―「宿とはどうなるべきか」を問い続けている宿ですか。

「古いものを守りながらも、やっぱり攻めている宿」のことです。進化とは、単に新しくすれば良いというものではないです。より良い方向を目指す過程で、古きものの中にも良さがあればそこに原点回帰をする。または古きものを生かしながらより良くしていくということが求められていると思います。
―上野様としては「日本 味の宿」のどのような価値観に魅力を感じ、共感されていらっしゃるのでしょうか?

上野純一氏(以下上野):私にとっての「日本 味の宿」の魅力は、柏井先生をはじめとする加盟施設の皆さんが「旅館とは何か、どうあるべきか」を常に問い続けている点です。そして単に情報を共有し合うという表面的なところで終わるのではなく、深く思いを語り合える機会があるというところです。それぞれの宿の経営者がそれぞれ志を持っているので、何か一つを一緒に目指すのは難しいことかもしれません。ですが、そういう志を持っている者同士が理解し合い、励まし合いながら共に切磋琢磨できるというのが何よりありがたいですね。
柏井先生が語る「庭園の宿 石亭」の味とは
―柏井先生が思う「庭園の宿 石亭」の魅力をお聞かせください。

柏井:「庭園の宿 石亭」の一番の魅力は庭園です。全ての客室から同じ景色を眺めることができ、この広々とした庭をみんなで囲んでいるという一体感ですよね。坪庭だったり、自分の部屋からしか見えない庭はよくあったりするけど、ここは全ての部屋から池の鯉が見えます。1階と2階とでも全然違いますし、見る部屋によって表情が変わるんですよ。庭を歩きながら見るだけでもまた違う。

柏井:小さな子供達が散歩しながらパタンとこけたりするのも景色の一部。雨の日、庭に雨粒が落ちる音が広がったり、鯉が池の中で跳ねたりする音なんかは、どんなBGMもかなわないです。ある意味古臭く、今の時代の発想ではきっと生まれないでしょうね。全ての部屋から庭を望めるというのは、部屋同士の様子も見られてしまいます。おそらくプライバシーが守れないとか議論が生まれ、今の時代では造れないでしょう。

上野:庭園の良さは、柏井先生が気づかせてくれました。初めてご夫婦でお泊りにいらっしゃった際に先生がおっしゃったんです。「絶妙な距離感だね」と。私はそれをポジティブに捉えて、お部屋同士も景色にすれば良いという考えに至りました。そこからお部屋の改修を進め、お部屋も、そこに映る人のシルエットも景色の一つとして、創り上げられる世界観が出来上がりました。

柏井:あとは至るところに居場所がある部分ですね。「床下ライブラリーテラス」をはじめ洞窟のような「凡々洞」、遊びに溢れた穴倉のような「吸吐文庫」など、庭のあちこちに隠れ家を思わせるパブリックスペースが点在しているところです。

上野:一番の目的は庭に下りて頂くためです。うちの庭は“見る”庭ではなく、“する”庭という表現をしています。開放感の演出や景色としての庭だけでなく、 出られる庭にしたいのです。柏井先生がおっしゃられたように、庭園は「庭園の宿 石亭」最大の魅力の一つです。客室から庭を眺めるだけでなく、庭に出て散策したり、庭に面した場所に設けられた様々な居場所で寛いだりすることで、より深く庭の魅力を感じていただきたいです。
―お料理も、もちろん魅力の一つですよね。

柏井:やはり瀬戸内はお魚の宝庫ですし、通年を通して上質な穴子や牡蠣が食べられるのは強みですよね。最初僕が惹かれたのは穴子です。母体が「あなごめしうえの」ですから、その安心感もありました。穴子飯を作っている会社が宿をやるのであれば「料理は絶対大丈夫だろう」と。そして魅力といえば何よりスタッフの皆さんとの絶妙な距離感でしょうか。

上野:お庭にお客さんが出て歩いていたら、誰かしらが見ているようにしています。経験上、見ていたら次にお客さんがお部屋に行くのか「床下ライブラリーテラス」に行くのか「凡々洞」や「吸吐文庫」に行くのかわかります。夏だったら冷たいお茶を用意して差し上げるなど、つかず離れずの距離感を意識しています。

上野:また1日1組は突き抜けたコミュニケーションを取るゲストを作りたいなと思っています。お客様によって、スタッフとのコミュニケーションの取り方もニーズが異なりますので、全てのお客様にというわけではありません。例えば連泊されるお客様なら、2日目は半日私がこのエリアを案内して回ったりします。案内といっても私が行きたいところに行くだけですけどね。地元のことを色々と知れるので、お客様にとっても楽しかったりするわけですよ。そういう体験を求めているかどうかも、お客様と適切な距離感をとっていればわかります。それぞれのお客様にあった滞在スタイルで「庭園の宿 石亭」での滞在を味わってほしいなって思いますね。
これからの旅トレンドや宿のあるべき姿とは
―最後に、コロナ禍を経て様々な変化が旅行業界にもあったかと存じます。コロナが終わり、現在の旅のトレンドについてお伺いできますでしょうか?

柏井:一言でいうと、僕らが思っている以上に多様化が進んでいます。例えば、一人旅の需要がますます増えていると感じるのですが、その内容も新しい形のものが生まれてきていると思います。夫婦で同じ宿に泊まるけど、それぞれ別の部屋に泊まる、そんな夫婦の姿を見かけるようになってきました。食事は一緒に食べるけど、あとは別々。または数日間の旅行であれば好きな時に一緒に出かけて、あとの時間はそれぞれ楽しむ。最近は一人用のお部屋から埋まっていくなんていう話も聞きますよ。
―旅のニーズというのもそれに合わせて変化を感じられますか?

柏井:近年のトレンドとして、より広く、開放感のある部屋を造るということが重視されてきたと思います。ですが、今後は一人で利用できるような小さなお部屋のニーズも増えてくると思います。また、露天風呂付客室が注目されてきましたが、開放感のある大浴場でゆったりと温泉に浸かりたいという方もいるでしょう。さらに、レトロブームやノスタルジックさからではなく、新しい楽しみ方としてカラオケなどを求めるニーズもあるかもしれません。宿としては、多様化するニーズに対して、それを全て取り入れるのではなく「うちの宿はここが特徴です。こういったお客様のニーズにマッチしています。」と、うまく発信していくことも求められていくのではないでしょうか。
―「庭園の宿 石亭」の今後の展望や、上野様が思うこれからの宿のあるべき姿についてお聞かせいただけますか?

上野:過去10年間、やりたいと思っていながら、やりきれていないことが色々とあります。
最近はうちにも外国人スタッフが増えてきました。タイやミャンマーなどのアジア各国から「旅館で働いてみたい」という強い思いをもってうちにきてくれているんです。お客様のニーズも多様化している中で旅館の多様性も色々な形があって良いんじゃないかなって思っています。

また、今課題としているのは「儚いもの」をどう表現していくか、どう利用していくかというところです。全てのものは、いずれ消えていくし、崩れていくし、駄目になっていきます。儚いものの中に美を感じる文化が日本にあるとすれば、そういった要素をどうお客様の琴線に触れる形で伝えていくのかというところを考えています。例えば灯やろうそく、匂いや言葉など。「儚さ」という日本文化をうまく表現できるようにしていきたいと思っています。
***
柏井 壽氏
1952年京都市生まれ。1976年大阪歯科大学卒業。歯科医・作家
京都関連、食関連、旅関連のエッセイ、小説を多数執筆。
代表作に「おひとり京都の愉しみ(光文社新書)」「日本百名宿(光文社文庫)」「ひみつの京都(SB新書)などのエッセイ集、「鴨川食堂(小学館)」「祇園白川小堀商店(新潮社)」「うみちか旅館(小学館)」などの小説がある。
最新エッセイは「しずかな京都(SB新書)、最新小説は「鴨川食堂しあわせ(小学館)」。
上野 純一氏
1956年、広島県廿日市市宮島口生まれ。慶応義塾大学卒業後地元広島に戻る。
30歳で「庭園の宿 石亭」の二代目、「あなごめしうえの」の四代目主人に就任
***
庭園の宿 石亭
広島県/廿日市・宮浜温泉












