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日本旅館のエキスパート・柏井壽氏に聞く、上質な宿の条件
インタビュー

日本旅館のエキスパート・柏井壽氏に聞く、上質な宿の条件

元号が変わり、新しい時代への扉が開かれようとしている今。私たちが求める上質な旅には、何が必要なのでしょうか。日本各地の旅館を泊まり歩き、「日本 味の宿」の顧問を務める作家・歯科医の柏井壽氏に、上質な宿に必要な条件を伺いました。

全国各地に星の数ほどある宿を知り尽くしたエキスパート・柏井氏に聞く、上質な宿の条件

―2003年に執筆された著作「『極み』の日本旅館」の中で、旅館を楽しむポイントとして、「ハヒフヘホがある宿を見つけること」とありました。今の時代に必要なものを、詳しく教えていただけますか?

執筆から15年ほど経ちますが、宿の本質を考える基本なので、あの頃と大きく変わってはいないですね。

◆「ハ」は花。

宿の心持ちがわかる、いわば「飾りの象徴」なので、まずは花に目がいきますね。どういう飾り方でお客さんを迎え入れているか、日本の作法に則っているか。
大事なことは、季節に一番ふさわしい生花が入っているかですね。また、生け方によって心がこもっているかもポイントになります。
旅館は日本文化を象徴し、生きた形で残しています。そう捉えると、花は誰が見ても一番わかりやすい部分ですよね。

◆「ヒ」は灯。

仙郷楼

日本の自然の明かりに近い電球、あるいは行灯などで、きちんと雰囲気作りをできているか。あとは「火」そのものの使い方。秘湯に行ったりすると囲炉裏があって。今は消防法などで囲炉裏を置くのが難しくなっていますが、火は人が集まりやすいポイントにもなります。洋風であれば暖炉。薪をくべるには、まずは薪を切らなければいけない。一つ一つの手間をかけることが、宿の大事なところだと思うんです。

◆「フ」は風呂。

紅鮎

日本人の文化として、風呂は大事な儀式です。温泉に入るのって、夕食の前段階の儀式みたいなもので、一番清潔感が見えるところでもあります。大浴場があれば、どれだけ絶えず整頓しているか。

◆「ヘ」は畳のへり。

へり・ふち・はしっこというのは一番見える場所なので、そこに注意すると清潔感がよくわかります。前に泊まっていた人の気配をいかに消すか。
また、仲居さんの作法で日本文化をちゃんと理解している宿かも表れます。

◆「ホ」は芳香。

基本は何にも香りがしないのがいいと思うんですよ。日本のお香がかすかに香るくらいがちょうどいいかなと。
良かれと思っているのかもしれないけど、アロマの香りがきついのも気になります。

―さまざまな宿を長年見られてきた柏井さんにとって、どういうものが上質の宿だと思いますか?

石亭

滞在を通して「味わい深い宿」である、ということ。
味わい深いかどうかはいろんな場所で出てくるんですが、チェックインで玄関を入った瞬間の対応で、ある程度わかりますね。旅館に入ってくる客の気配を感じ、お出迎えしてもらえること。声をかけないと誰も出てこないのは、途端に味気なさを感じてしまいますね。

―確かに、見た目はおしゃれで名宿のようでも、対応してくださる人の態度で、違和感を覚える宿もありますよね。

例えば内装をおしゃれにしたり、客室露天風呂を作るのが流行ですが、無理に作らなくてもいいと思います。快適さを求めると、客室露天があるべき宿ってそんなにないはずだと。景色が良いのに塀で囲んでしまい、風呂に入っても何にも見えないのは、僕はあんまりいいとは思わないですね。
それより「他のどこにもない」個性や自慢できるものがないと、宿としての魅力は半減するかなと。

「日本 味の宿」設立のきっかけと「味わい」について

―2013年9月に「主人・女将の顔が見えること」をコンセプトに「日本 味の宿」を設立されましたが、そのきっかけは?

旅館に行って感じたのは、女将はいるのに主人は大抵いないこと。組合や旅館の集まりが多い縦社会の世界で、これからの旅館を語っているんです。
しがらみに影響されないグループを作って、忌憚のない意見を言える関係になったらどうかっていう話をしたら、乗ってきてくれる人が集まりました。
僕が顧問を引き受ける条件は、一切お金はいらないから、その代わりに好きなことを言わせてもらうこと。一旅行者として思うことを伝えています。コンサルタントの人たちとは別の視点だから、この会は面白いんじゃないかな。

―加盟施設は38件となりましたが、どういう基準で選ばれるのですか?

それはもう僕の好み。僕が行きたいとか、行って良かったとか。なので「柏井好み」っていうのがセレクト基準です。
まずは主人の顔が見えて、彼らに会いに行くような宿。それに「味の宿の条件」というものが4つあって、それを満たしている宿です。

1.「地元に根付いた宿」であること。

角上楼

周辺の情報を何でも知っていて、地域の方も宿があるとわかっているような宿。地元に馴染んで根付いている、地域密着型で積極的に地元の町とか温泉街へ街歩きをさせるような宿ですね。

2.「野にあるごとくおおらかな宿」

黒子のように、野に咲く野菊のようなふりができる宿。客を緊張させる対応だと、結局何をしにいったかわからないから。お客さん自身が綺麗に輝くような宿がいいですね。

3.「宿とは何かを問い続ける宿」

那須別邸回

宿のあり方についてちゃんと振り返る姿勢があること。いつも勧めているのは、自分の宿に泊まってみることです。初めてのお客さんに対してどれだけ心遣いができるかっていうのが、一番よくわかるし、実感できるのではないでしょうか。

4.「どこにもない宿である」

百名伽藍

他の宿にはない、独自性をちゃんと主張できるか。
流行を取り入れるだけで個性がないと、埋没してその宿に泊まる意味がわからないですから。

―加盟施設は一休.comでも人気の魅力的な施設ばかりですね。2019年には「石山離宮 五足のくつ」と「オーベルジュあかだま」が新しく入ってくださいました。

オーベルジュあかだま

あかだまくんは、オーベルジュがまだ人気のない頃からやっていて。あの場所がすごくいい。遠くて何にもない場所で、海のすぐそばなのに森の中みたいな感じ。
わざわざ行く価値があると思う理由は、ご家族で料理を一緒に作る「ファミリー感」。彼のお父さんが「あかだま食堂」という食堂をやっていたからかな。「食堂」の延長線上にある宿で、魅力を感じました。今は料理を研究し尽くしたフレンチみたいなとがったものが流行っているけれど、緊張感を与えすぎてくつろげない。
彼らの持つ、穏やかな空気の中で、おいしい料理を食べる時間が好きですね。フランスの田舎のオーベルジュってこうじゃないかなって思わせる、ほんわかとした良さがある。
今4棟目を作っていて、本気で宿をやっていく気概がある方です。

五足のくつは、こんな崖の上によく建てたねって感動しました。
オーシャンビューではない海の見え方が、一番好きで。露天風呂に入ると目線の高さ、木の間にちょっと海が見えるセンスはなかなかすごいなと。東シナ海が目の前で、アジアっていうのを色濃く感じさせる良さもありますね。

―宿名が斬新ですし、一つの宿ができたことが話題になって、文化的な発信ができるようになったことでも知られていますね。

五足のくつ

まさに地元に根付いている宿ですね。普通じゃない宿名の由来を聞いて、かつて詩人たちがこの土地を旅したことを知る、という。天草という文化を、彼は伝えようとしている。レストラン入って、グレゴリオ聖歌が流れてくるって普通じゃないと思うんですよ。あえてそれをやるところが、彼(オーナー・山崎さん)のキリシタン文化に対する愛情というか。
旅に対する宿の使命について、先見の目がある方ですね。

自分を見つめ直す時間として、旅を楽しむ

―今の日本人や現代人は、どんな旅を求めているとお考えですか?

一つは一人旅ですね。自分を見つめ直す時間を作るのに、普段とは違う非日常を味わえる一人旅は有効な手段。日本旅館で「全室一人用の宿」があっても面白いなと思っているんですよ。食堂か囲炉裏で、みんなでご飯を食べるスペースがあって、お風呂は大浴場で。プライベートスペースとパブリックスペースが分けられている、一人旅専用の宿なんてどうでしょう。

もう一つ「すみずみまで」っていう日本の隅っこまで行く楽しみが、これからのキーワードになるかな。点で行く旅から、線で周遊すること。天草が典型ですが、辿っていく楽しみっていうのがあると思うんです。

―一休.comは、「こころに贅沢させよう」がテーマなのですが、柏井さんにとって「心の贅沢」とは何でしょうか?

やっぱり一つは時間でしょうね。どれだけ時間を贅沢に使えるか。
ビジネスに奔走している人って、1分1秒が大事な暮らしをしているわけで。そんな人がみんなハワイに行く理由は、することがないからぼーっとするしかないっていう贅沢な時間を過ごせること。それをどうやって宿側が提供するかがポイントじゃないかなと。旅館もチェックイン12時、チェックアウト12時っていうのができたら嬉しいなと。

―いろんな宿を見ているからこそ、宿側の意見ではない、ユーザー視点に立ったお話ですね。

「どういう宿がいい宿ですか」って聞かれるんですが、答えは一つ。チェックアウトのときに、払ってよかったなって思えるか。お金ってシビアで1万円でも二度と来たくない気持ちになるところもあるし、一番わかりやすい。
心の贅沢はお金ではないけど、資本主義社会で生きていれば、どこかでお金に繋がる部分があるわけですから。
「コストパフォーマンス」は、気持ちよくお金を払うという点で、贅沢の一つの基準になりますね。

公私にわたり、さまざまな宿を訪れているからこその幅広い視点。作家・歯科医を超えて、「日本 味の宿」の顧問を務める柏井壽氏の宿の楽しみ方や見極め方に、私たちもすっかり魅了されてしまいました。

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柏井 壽
1952年京都市生まれ。1976年大阪歯科大学卒業。京都市北区にて歯科医院を開業。
京都関連、食関連、旅関連のエッセイを多数執筆。
代表作は「おひとり京都の愉しみ(光文社新書)」「日本百名宿(光文社文庫)」。
食をテーマにした小説「鴨川食堂(小学館)」「祇園白川小堀商店(新潮社)」をシリーズ刊行中。
「日本おいしい小説大賞」の選考委員も務める。
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【日本 味の宿】特集ページはこちら

(今回のインタビューは、ぎおん畑中様で行わせていただきました。)

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