クローズアップ

囲炉裏料理と、職人技の様な気配りが魅力の小さな隠れ宿 広丞庵 かのか(千葉県/夷隅郡)

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千葉・房総の中央部、なだらかな山々が連なるのどかな丘陵地帯。ここに都心からのリピーターも多く評価の高い、小さな小さな宿があります。真夏なら、虫取り網を持った麦わら帽子の子供が歩いていそうな、そんな農道が続く里山の奥。

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田圃の真ん中の三叉路にある小さな小さな白い看板を見落とさない様に左折します。そこからさらに10分弱、隠れ家という言葉がぴったりな一日三組限定の「広丞庵 かのか」があります。

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ご主人と女将が目の届く範囲にこだわり、客室は離れ三棟のみとしたこの宿は、ここまでの農道から打って変わって、整えられた敷地にひっそりと佇んでいます。

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レセプションのある本館に入ると、そこは梁がむき出しの高い天井で、本格的な囲炉裏も置かれたその風情は、屋根の高い古民家の様です。ここで心づくしの和菓子とお茶を頂いたあと、お部屋に案内されます。

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「かのか」の敷地は里から続く緩やかな丘陵の頂上にありますが、敷地の裏側は急に落ち込み、鬱蒼と生い茂る木々の中に広がる貯水池に面しています。
部屋からの視界は豊かな緑でいっぱいで、僅かに感じられる人の気配と言えば、遙か遠くに見えるゴルフ場の整ったフェアウェイ程度でしょう。

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テラスに出れば寝椅子が置かれ、何を気にすることもなく寛ぐことが出来ます。夜ともなれば里の灯りも目に入らず、満天の星空が楽しめます。

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その景色はテラス横に設けられた露天風呂も同様です。掛け流しの湯音を聞きながら、夜に朝に昼に贅沢な湯浴みが楽しめます。

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お部屋は華美をおさえた和モダンの設え。

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高い天井に余裕の広さ、畳ベッドやアメニティ、床暖房など設備にも配慮、そしてなんと言っても、隅々まで目配りが行き届いた清潔感が心地よいのです。

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夕食は、半個室に本格的な囲炉裏が設けられた本館のお食事処で饗されます。
この囲炉裏と炭火は単なる飾りではなく、新鮮な地の食材を本格的に”調理”する調理器具として活躍するのです。

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食前酒の自家製果実酒に食欲を刺激されると、まずはメインの焼き物が、目の前の焼き網に“じゅっ”という小さな音と共に並べられます。
この日は一人一尾の伊勢エビと旬の鮎、そして椎茸などのお野菜。特に鮎は焼き上がりまで1時間近くかけられます、そのもどかしさも料理の楽しみの一部になっています。

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前菜の三種盛りは野趣溢れる組み合わせ。サザエのハーブバター焼きは、サザエがこんなに美味しいものかと驚かされます。お造りの3種は金目鯛、平目、石鯛と房総の地物で構成され、過飾を避けた分、鮮度と旨みが際立ちます。

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やがて伊勢エビ、次いで鮎が焼き上がります。炭火によって、本能に訴える鮮やかな焼き目と香りを纏い、塩のみの原始的な味わいが口腔を満たしていきます。
特に、自らの脂によって、まるで揚げた様に焼かれた鮎のパリパリの皮、しっとりした身と香ばしさは別格です。焼き物の最後は厳選された和牛を、強火で炙る様に焼いて頂きます。
おろしたてのわさびに塩を混ぜ、少しお肉に乗せて頬張ると、炭火から遷った香りが第三の調味料となって、脂の旨みに奥行きが生まれています。

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全ての焼き物は、ご主人が食事の邪魔をしない様にさりげなく目配せし、完璧に焼き上げてくれます。先の鮎以外にも、例えば海老などは脱皮直後のものを選び、じっくり焼くことによって殻まで香ばしく頂ける様に、春の朝取りのタケノコは、ほっこりジューシーに焼き上げてもらえます。これも一日三組という宿のなせる技でしょう。
朝食でもこの囲炉裏が活躍します。名産である干物を目の前の炭火で焼けば、素晴らしいご馳走となり食卓が一層華やかに。
味噌とカンパチの身を叩いた地元の漁師料理”なめろう”、山の幸である自然薯のとろろなども添えられて、”房総”が、見た目も美しく並べられ、朝から食べ過ぎてしまうこと必至です。

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一日三組の小さな宿とは言え、驚くのは人の気配を感じる機会が少ないこと。
もちろんその日の状況にはよりますが、チェックイン時から、食事処への案内、チェックアウトタイミングなど、ゲストの様々な事情に考慮した上で、職人技の如くタイミングを調整しているのでしょう。

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スペックだけを見れば、料理民宿とも言えそうな小さな宿です。
しかし一晩過ごせば、ここが優れた料理旅館であることがわかります。何故なのか?その答えを美辞麗句で表すことは簡単なのかもしれませんが、この宿にはどうにも似つかわしくなく、しっくりくる答えが見つかりません。
ただ、その答えは”最高の宿とは何なのか”という問いの答えにも通じている気がしてならないのです。

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