海の隠れ家 3
東京でラフスケッチを見せられて、一目で気に入った。変哲の無い長方形の外観、四方を巡る回廊、回廊の内側はすべて開け放たれるガラス戸、折り溜まれたガラス戸は太い柱の中に収納される。 縦に4人は横になれそうな長いコーナーソファーと低いテーブルしか置いてないガランとしたサロンに、バーにアレンジした簡潔なキッチンと屋上への螺旋階段があり、 それに客用化粧室と主寝室とゲストルーム、それがすべてであった。そして屋上のダイニングとプール。「この家には冷房はいらない、シンプル イズ ベスト」と建築家は言った。 完成のあかつきにはフィンランドの貴婦人を招待して試しに生活をしてみるとウインクした。
長すぎる試生活の後、家具や調度を手直しして、時々貸して貰いたいとの申し出とともに引き渡された。早速夏の休暇を過ごした。
屋上のプールのせいか涼しく、日中汗もかかない、調度の配置も行き届いていて1人の暮らしにも快適だった。下からは丘の上の建物は見えない、
丘に登ってくる1本道の麓にあるアールデコ調のアーチの門ですべてがシャトアウトされ、策や塀も無いのに動物以外侵入できない開放された空間がなによりの魅力だった。
文字通りの隠れ家である。ゴルフ仲間と滞在したり、ヨットレースのチームに宿舎として提供したりしていると、評判を聞きつけた知人が貸して欲しいと言ってくるようになった。
どれも忍ぶ恋だったり、壊れかけた関係の修復だったり、世間からの逃避や雲隠れなど分けありの人たちの隠れ家としてであった。
同窓会に遅れてきた代議士に腕を引っ張られて会場の隅に導かれ、切々と新しい恋を告白された。彼とは高校から一緒で、苦しい時に連絡をくれた数少ない友人だった。 高名な政治家だった祖父の後を継いで政治家になった。それがテレビキャスターから議員になった同僚と恋に落ちたのだという。それだけでもスキャンダルなのに、 2つ違いの彼の妻も政治家の娘で、共に議員宿舎から中学、高校、大学に通った幼馴染で結婚したロマンスは世間に知れ渡っていて、当然のこととして地元に留まって彼を支えて評判もいい。 「よせ!」と言ったが真剣だという。とにかく密会の場所が無くてなかなか逢瀬が叶わない、「今度、彼女がアメリカに行くので帰りに島で会いたい、海の隠れ家を貸して欲しい」。 それを直接頼むために今日来たのだという。 帰ってきた彼からお礼にご馳走するからと呼び出され、すばらしい家だと絶賛されたのだが、すばらしいのは彼女で、1週間一歩も外に出ず愛し合ったことをぬけぬけと話す。 おかげでとても深まったとここだけは真剣だった。その後も何度か2人は島に出かけ、結婚し、ともに次の選挙で落選した。





