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一期一会

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連休が終ったハーバーは閑散としている。天気はいいのに気温はそんなでもなく、湿度もひくい。陸揚げのヨットがコンクリートの地面にくっきりと影を描き、影の中で野良猫が丸くなって寝ている。時おり、連休中に壊したリギンの直しや船体の化粧を夏のシーズンまでに終えるべく、グラインダーの音が響き渡る以外何の音もない。

大きな紙袋を引きずって駐車場からポンツーンに向かった。クラブハウスの受付を覗いたが誰もいない。そのままポンツーンを降り、ゲストバースに係留されているFKに乗り込んだ。FKはデンマーク製、船齢20年の40フィートスループ。最盛期には数々のロングレースに出場、何度か優勝したが、いまはその老体を白日に晒して横たわっている。

ハッチを開け、船内に入りそのままバウ(船首)に向かいバウのハッチを開けて風を通す。次に毛布を2枚引っ張り出して、ブームに掛けて乾す。もう1枚、持ち出して半分に折ってバウのデッキに引いた。それからスターン(船尾)のロッカーを開け、プロパンボンベのコックをあける。船内に戻ってパーコレーターを火に掛け、コーヒーを沸かす。コーヒーを飲みながら船内を点検する。水タンクと燃料タンクのゲージはフルを差している。冷蔵庫には注文どおり氷が積み込まれている。ワインスタンドのジンを引き抜いてその中にビールといっしょに入れる。紙袋から野菜、肉とハム、チーズを取り出してセットする。食料庫を開け、米、スパッゲティー、麺類、カップヌードル、缶詰、調味料を確認する。1週間は十分もつ、魚はそのつど都合をつければよい。

紙袋から本を取り出しブックスタンドに一冊一冊差し込む。ワインをスタンドに、モーツアルトのCDをプレーヤーの蓋裏のケースに仕舞って一心地付く。それからエンジンをかける。夜に備えてバッテリィを充電するためだ。コーヒーを継ぎ足し、本を脇にはさんで枕をもってデッキに上がり、バウの毛布の上に横になる。

目を閉じているとさっきまで気がつかなかった陸鳥のさえずりが聞こえる。デッキのゆるいカーブに背骨を添わせて伸びをする、左のわき腹に鋭い痛みが走ったが、そのまま続けていると少しずつ痛みが遠のく。規則的なエンジンの振動と冷却水の噴出する音が心地よい。本を読もうと取り上げたがなんとなく億劫になり、目を閉じたままでいる。潮が満ちて来る気配、風が息をする気配、小魚が跳ねながら群れ戯れる気配、それを狙う鳶の下降する気配、強烈な日差しに貫かれながら自然の気配を追う。忘れていた感覚が少し戻ってくる。
(この物語はフィクションです)

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