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一期一会


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ウィンブルドングリーン・ポルシェ 2


女の城と聞けば男はなまめかしい想像を巡らすが、女の城の住人が一人で、個性がいっぱいに詰まった秘めやかな空間だからである。城は守りのために築かれる。壕を堀り城壁を高くし何人をも近づけない安住の居城、ここで体と心を休め明日の戦に具えるのである。戦いを持たない女性には不必要なものであろう



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都内の販売店リストの上から順、全部に依頼をだし、連絡を待った。ミツワの販売担当者から、要望をくわしく知りたい、どんな乗り方をするのかと電話が入った。彼と話しているうちに自分の考えが少しずつ顕になってきた。

疾走するためにすべてが造られ、そのためにこれしかないRRのスタイリングデザイン。デザインに沿って空けられた小さなエンジンルームに削ぎ落とされた極小、高馬力のエンジンがぎゅうぎゅうに詰め込まれ、とてもラジエターのためのスペースはない。高温の空冷エンジンはパッキンやチューブといったゴム類をたちまち劣化させるがそれには目を瞑り高速回転を求め、不自由なエンジンまわりの調整は下に落とすことで解決。
フロントトランクルームに納めるテンパータイアはリムに空気を抜いたタイアを巻きつけて納め、使用時には別備えの小さなモーターで膨らます。その下に60リッターのガソリンを搭載してミッドシップのバランスを作り出している。精悍、流麗、不適な面構え、破裂する低音のエキゾストル。まさに疾走するアキレス、体じゅうから発するオーラが小さな体を巨人へと変える。

何を優先するかこれほど明確な車はない。これが彼女を捕らえたのだ。やがて動けなくなるという確固たる事実、疾走こそが唯一の使命であるこの車もやがては動かなくなるが、いかに維持するか、どこまで寿命を長引かせるかは彼女の意志である。それは自分の体をも自分の意志下に置くという決意、戦う決意の自分への表明であった。

面会を求めて会った販売担当者は傷だらけで変形した手を見、話を聞いて彼女の思いを感じ取ったようで、必ず見つけると約束した。すでに思い当たる車があるようである。3ヵ月後、彼女の元にウィンブルトングリーンの1993年製、最後のポルシェ964カレラがピカピカに磨かれて届いた。内装は張り替えたような真っ白の皮装、前の持ち主のいたわりが伝わってくる。車を大事にしてくれる人に受け継いで欲しいということで、何人も購入希望者が現れたがOKがでなかったのだという。
したがって価格も「かわいがって欲しい」という伝言付で提示どうりで了解してくれた。なにより驚いたのは色である、このような色の車は見たこともない、彼女のために誂えたような色である。シックで気品に満ちている。喜ぶ姿を見ている販売担当者の輝く笑顔にも驚かされた。

(この物語はフィクションです)



次回へつづく
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