真鍋圭子
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以前、オーケストラの最高峰と言われるウィーン・フィルのコンサートマスターのキュッヒルさんに、「オペラとシンフォニー、両方は大変ですね」とお聞きしたら、「僕はオペラが大好きだから。65歳の定年になってオペラを弾けなくなると思うと、今から寂しいよ」とおっしゃるんです。「今日はどんな歌い手が、このフレーズをどう歌うのか。毎回違うから、それを聴くのが楽しいんだ」と。その舞台でしか聴けない「一期一会」。それがオペラの楽しみです。
歌い手の体調やコンディションはもちろん、観客の反応も日によって違います。その反応次第で歌も演奏も変わってきます。特にサントリーホールは舞台が近いので、客席の反応をびんびん感じて舞台がそれと共に変化していく。まさに「一期一会」です。

今回の『ドン・ジョヴァンニ』では、指揮者のニコラ・ルイゾッティさんが歌い手と同じ舞台に立ちます。彼はフォルテピアノという楽器で、ドラマが進行するセリフの部分を、全部伴奏します。それも絶妙のアドリブを入れて。去年の『フィガロの結婚』でも、1幕で悪いことをするから軍隊に行けと言われたケルビーノが、2幕で軍隊に入る格好で出てきて、マエストロの前で「見て、こんな格好で悲しいの」というジェスチャーをすると、パッと調性をト短調に変えたりして楽しんでいる(笑)。それも毎回違うので、聴いている私も楽しんでました。(笑)

真鍋圭子

このときは、自分でチケットを買って最前列で観たんですけど、隣に60代の夫婦が座っていました。この奥さまが、伯爵が女主人公を追いかけると「まあ」と言ったり、浮気がみつかって伯爵夫人にあやまるところでは嬉しそうに「フフッ」と笑ったり(笑)。ほんとにドラマの中に入り込んで楽しく観ているんですよ。それも舞台が近くて、出演者の演技を間近で見ることができたからだと思うんです。あんなふうに、観客がドラマの中に入って一緒に楽しんでくれている姿を見るのは、制作側としてもほんとに嬉しいですね。
今回も、ダ・ポンテの書いた台本のセリフは、裏にもうひとつの意味があるお遊びの言葉が多いのですが、イタリアで有名な舞台俳優でもある演出家のガブリエーレ・ラヴィアさんが、それをうまく生かして細かく指示を与えています。どのようになるのか、私も楽しみにしています。

真鍋圭子

今、日本でやる公演にはほとんど字幕がつくのでわかりやすいのですが、10分でも早めに行って、ちょっとプログラムに書かれたストーリーを読んでおくともっと楽しめると思います。字幕を追うだけでなく、舞台のいろいろなところに目をやれますから。
今回は、舞台衣裳が必ずしも当時のものではなく現代に近いのも、舞台装置がホールの木の床を生かし、色をいっぱい使った面白いものになっているのも見どころ。360度、どこからでも観客が観える舞台装置を作るのは難しいと言われますが、今回の舞台美術を担当している舞台装置家のアレッサンドロ・カメラさんは、昔から野外の円形劇場を見慣れているので、まったく違和感はないそうです。

日本人は今のオペラハウスで上演されるのオペラを見て「あれがオペラだ」と決めてしまいがちですが、オペラの原型はギリシャ悲劇。舞台が真ん中にあり、まわりの客席が高くなっている劇場でやっていたわけですから、こういう舞台のほうが昔ながらの形といえるのではないでしょうか。
ホール・オペラの場合、オペラハウスのように「正装で」という常識がないので、お洒落なドレスでも、気軽にいらしてもしっくりきます。普通のオペラハウスで見るオペラとはずいぶん違う舞台が飛び出してくる臨場感を、みなさんにぜひ一度体験していただきたいと思っています。

真鍋圭子(まなべ けいこ)

音楽ジャーナリストであり、サントリーホール・チーフプロデューサー。
上智大学哲学卒業後、ベルリン自由大学、ミュンヒェン大学で音楽学を専攻。ミュンヒェンを拠点に音楽ジャーナリストとして活動する。 1996年にオープンしたサントリーホール設立プロジェクトに参加。以来、プロデューサーとして、世界的なアーティストの起用、国際的な音楽祭との共同制作など、 斬新なホールオペラやコンサートのプロデュースを手がける。著書に『カール・ベーム』『バイエルン国立歌劇場』など。

【日時】
2009年4月5日(日)16:00開演(15:20開場)
4月8日(水)18:30開演(17:50開場)
4月11日(土)16:00開演(15:20開場)
【場所】サントリーホール (大ホール)
【料金】S27,000円 A23,000円 B19,000円(残席僅少) C15,000円(残席僅少) D8,000円(完売)

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