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一期一会

金谷ホテル(日光)金谷ホテル(日光)

金谷ホテル 一期一会
一期一会
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1. 古いから価値がある

百会楽話 金谷ホテル 井上槇子 × 渡辺淳一
百会楽話 金谷ホテル 井上槇子 × 渡辺淳一
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百会楽話 金谷ホテル 井上槇子 × 渡辺淳一
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井上槇子(いのうえ まきこ)
金谷ホテル株式会社 執行役員 統括本部長。金谷正夫・花子の次女として東京に生まれる。創立者金谷善一郎の曾孫。私立自由の森学園の設立に拘わり同学園理事、評議員、事務局長として勤務。平成13年4月金谷ホテルに戻り13年8月社長に就任。現在 執行役員 統括本部長。


渡辺淳一(わたなべ じゅんいち)
北海道生まれ。医学博士。1958年札幌医科大学卒業後、整形外科講師となり、医療のかたわら小説を執筆。1970年『光と影』で直木賞を受賞。1980年に吉川英治文学賞、2003年には菊池寛賞などを受賞。 北海道・札幌に渡辺淳一文学館がある。作品には「阿寒に果つ」「無影燈」「白夜」「ひとひらの雪」「失楽園」など多数。現在文壇の第一線で活躍している。

オフィシャルブログ | 渡辺淳一文学館
渡辺 井上さんは、この金谷ホテル全体の執行役ですか。
井上 金谷ホテルは二つでして、日光と中禅寺です。
渡辺 この両方を統括されているんですね。
井上 はい。
渡辺 創業者の金谷さんの?
井上 私は創立者の金谷善一朗の曾孫になります。次に継いだのは私の祖父、真一でございますが、子どもは女2人しかおりませんでしたので、父、正夫は母のところに井上から養子でまいりまして、社長に就任しました。そのあとを兄、太郎が継ぎました。私は帰ってくるとは思ってもいなくて、他のことをやっておりましたが、突然こちらに帰り5代目になりました。平成13年の4月です。その当時会社は経営不振になっていたのと、社員たちがあまりにも管理されておりまして、覇気がなく暗く感じられる状況でした。私は自由教育の学校に関わっていたので帰ってこいと。その8月に社長になりました。
10年前 中禅寺の金谷ホテルを建て替えた時の資金を銀行からたくさん拝借してしまいまして、とても大変な時期でした。その中で足利銀行が倒産してしまったんです。
渡辺 じゃあ金谷さんの血筋というのは、今は井上さんお一人ですか?
井上 そうなんです。それまで金谷一族だけが株主でしたが、3年前、新しい体制になったんです。私が続けてやっていくことが足利銀行のご意向だったものですから、社長を退任しましたが現在の職についております。社長には富士屋ホテルの元副社長をしていらした秋山剛康氏にお願いをしていらしていただきました。
渡辺 そうですか。今は富士屋ホテルとつながりがあるんですか。
井上 もう退職なさって、悠々としていらした秋山さんにきていただいたので、富士屋ホテルとは関係はございません。
渡辺 東京では、金谷ホテルは憧れのホテルで。何といっても日本で最初のホテルだから。
井上 日光は二社一寺があって、その中で日光の人たちは暮らしておりますが、外資の方が入ってこられることになったら申し訳ない。みんなで守ろうと考えました。
渡辺 東京からだと地理的には箱根のほうが便利かな。でも日光は電車の便がいいから。
井上 そうですね。このごろ本数は少ないのですが、新宿と池袋から、東武とJRが合同で電車を出していただけるようになりました。
渡辺 創業明治6年ということは、何年になるのかな。
井上 135年になります。今でも創業の家はカッテジ・インという名前がついて現存しています。
渡辺 古いものを維持していくのは大変でしょうね。文化財とか、国指定の何かになっているんですか。
井上 登録有形文化財です。ここのダイニングが一番初めのダイニングです。ですから、床もギシギシいってちょっと傾いているんですが。
渡辺 天井も当時のままですか。
井上 はい。格間絵というもので、東照宮にこられていた職人さんが描かれたと聞いております。
渡辺 華やかな、楽しい絵ですね。
井上 誰が描いたとか、そういうものではないんです。それがまたいいと思います。
渡辺 この飾りもそうですね。
井上 はい。これも彫り物で干支です。
私がこちらにきまして、家の中にある蔵を開けたところ、その中から戦後、米国の接収の時に壊されては嫌だとしまってあった食器と一緒にレシピがたくさん出てきました。で、その料理を作ろうということになりました。メリケン粉も何もかも、その当時とはずいぶん違いますが。百年カレーというカレーを作りました。昔のカレーは私しか食べたことがないので総料理長と苦労いたしました。
食器も全部出して当時のものを使っています。今の社員たちに、昔の人が守ってくれたことを伝えて、これからも守って残していってもらいたいという思いを込め、昔のことを復活しております。
東京の大きなホテルとか、お金があるところはいろいろなことをなさいますが、金谷ホテルは「日本で最初のホテル」を売ろうと思います。
渡辺 でも、昔のレシピどおりにやるほうがお金がかかるんじゃないですか。
井上 そうですね。やっぱり懐かしいなと思っていただけることをやっていくしかないと思っております。
渡辺 “ここは金谷だ”“金谷はこれだ”って押しつけたほうがいいですよ。そのほうがお客さんも納得してくれるでしょう。今ふうのは東京でいっぱいやっているから。
井上 こんな小さなホテルにもいろいろな歴史がありまして。
渡辺 それはそうでしょ。日本一歴史があるんだから当然で。
井上 こんな田舎で、安く働いてくれる社員たちに、生活のためだけに働くのではなくて、都会ではできないことができるという何かを与えていきたいと、いろいろなことを試しております。その中で、放送作家の小山薫堂さんに巡り合って、広く教えていただいております。
渡辺 せっかく金谷ホテルにきたら、金谷独自のものがあったほうがいい。
井上 そうでございますね。
渡辺 東京に合わせることはありません。
井上 新しいことをすると、また次の新しいことを追いかけなくちゃいけなくて。
渡辺 古いものをやるから新しく見えるわけでしょ。とんでもない古いものを食べさせられると、見たことがないから新しいと思う。だから、訪れた人は“金谷ホテル”に行った、という気持ちをもって帰れる。
井上 いろいろお客様も変わってきているので……。
渡辺 でも、それは関係ありませんよ。金谷ふうっていうものを押しつけたほうが。それで嫌な人はこないし。東京と同じものを出すと、くるお客さんも飽きるから。自信を持って出したほうがいいですよ。
井上 ありがとうございます。金谷独特の昔のカレーをお出ししたり、そういうことにこだわっていくしかありません。
渡辺 いや、本当です。
井上 先生にそういっていただければ、心強くなります。ありがとうございます。
渡辺 これが金谷っていう料理を出したほうがいい。
井上 今総料理長をしておりますのも、丁稚から始めていますから。それはもう、愚直なまでにニンジンの皮をむいて、使う野菜をむいてとやってきましたから、冷凍食品なんて考えられないんです。この前は、料理長や古い人が残っているうちにと思って牛の半身を、職人たちがばらしました。今は肉屋からここはヒレ、ここはロース、ここは何って入ってきますので、牛のどこがどれだっていうようなことを知りません。
渡辺 なるほど。
井上 私が小さかった頃は、大きなむろみたいな天然氷が一杯入っている冷蔵庫に牛の半身をつり下げてあったんです。そういう場できちんと習ったんですね。



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Photographs by 安井敏雄

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