



井上旭 (いのうえ のぼる)
1945年、鳥取県生まれ。21歳で単身ヨーロッパに渡り、“トロワグロ兄弟”と出会い「トロワグロ」、パリの「マキシム」で修行する。帰国後「レカン」の総料理長を務め、1984年「シェ・イノ」をオープン。2004年に現在の場所に移る。フランス料理の命ともいえるソースにかけては、日本一という声が高い
1945年、鳥取県生まれ。21歳で単身ヨーロッパに渡り、“トロワグロ兄弟”と出会い「トロワグロ」、パリの「マキシム」で修行する。帰国後「レカン」の総料理長を務め、1984年「シェ・イノ」をオープン。2004年に現在の場所に移る。フランス料理の命ともいえるソースにかけては、日本一という声が高い
| 渡辺 | 僕がシェ・イノが好きなのは、うまいんだけど、重くない。くどくなくてうまい。うまいけどくどいところは、いっぱいあるんだけど。 |
| 井上 | 先生、そこなんです。僕がフランスにいた頃は、ルーってメリケン粉でつなぎを作っていました。1966年ぐらいに、フェルナン・ポワンっていう素晴らしい人がコーンスターチでリエゾン、ソースのつなぎをつくった。コーンスターチは固まる。メリケン粉はどっしっとして重い、コーンスターチは軽いです。エスコフェっていうのは、メリケン粉のどっしっとした料理ですが、その時変わったんです。これがフランス料理のエポック。 フェルナン・ポワンの弟子が、僕がいたトロワグロであり、ポール・ボキューズであり、アラン・シャペルであり、7人ぐらいいたんです。それが1971年か72年に、当時フランス全体で12軒しかなかった三つ星のレストランのうち、7軒取っていました。だから、時代のニーズがそこに来たんじゃないかと思います。 マキシム、トゥール・ダルジャン、それからラ・セールもまだ健在でした。でも、7軒取ったらすごい。料理の流れが変わってきたんだと思いますよ。 |
| 渡辺 | 今、世界のフランス料理はどうなってきているの? |
| 井上 | 世界の大勢は、もちろん今もフランス。日本ナイズされたフランス料理が多いけど。それから日本です。 |
| 渡辺 | だいぶ前からヌーベル・キュイジーヌとか言ってるね。 |
| 井上 | ヌーベルっていうのは、フェルナン・ポワンや弟子たちがやったのが、原点であり最終だと思うんですよ。ジョエル・ロブション、恵比寿のロブションにいますが、彼は僕と同い年です。日本料理の影響を受けて、飾りが綺麗、だけどソースがない。これはヌーベルではない。 今、不幸なことは、フランスの税金が高いことです。消費税が20%でしょ。だから店を作れないですよ。ゆえにジョエル・ロブションやロワゾが日本に来て影響を受ける。それから臓物料理が多い。臓物って安いからね。その中でうまいものを作って、お客さんに喜んでいただこうとするとそうなってしまう。 |
| 渡辺 | 今はユーロが高いからね。 |
| 井上 | だからワインが高い。我々料理店はワインを売る商売です。食材をみんなフランスから入れるわけですから、ユーロが高かったら、全部高いでしょ。30年前とは状況が違いますね。今どう生きるかっていう話は、大問題ですよ。日本も含め結構限界です。 |
| 渡辺 | それでも、あなたの、この店の、ここだけは崩さない、というところはどこ? |
| 井上 | 僕は、フランスの文化を日本に移行しようと思ってやってきました。金はないけど、ロマンはある。ロマンは人間が生きるすべの中で一番必要だと思うんです。そのためには、ここはトロワグロであり、マキシムであり、ラ・セールである。100%オーナーでなければならないんです。ここは崩せない。苦しくてもスポンサーなしでやっている意味は、ここなんです。これからの大きなテーマはフランスが忘れた食というものを、逆返しすることです。 |
| 渡辺 | それはどういう意味? |
| 井上 | フランスは、日本料理にこびを売っているじゃないですか。盛り付けとか。美学とか。 |
| 渡辺 | それが不満だと? |
| 井上 | 僕は不満ですよ。自分たちのハートを売っちゃっている。フランスはどういう国だということを、見つめながら料理を作れ、フランスはフランスであってほしいと思いませんか? |
| 渡辺 | でも、そうやることが今のフランス人に人気があるわけでしょ? |
| 井上 | 人気あるけど、文化が壊れますよ。ワインと料理は、やっぱりフランスの文化でであってほしいと思います。 |
| 渡辺 | それほど日本が影響しているわけ? |
| 井上 | まあ、今また、田舎料理を言い始めていますけど。 |
| 渡辺 | では、あなたは今の日本で、どういう方針で行こうとしているわけ? |
| 井上 | 盛り付けは日本人ですから、そんなことはできますけど、日本料理化はしない。フランスの文化を守りながら、やっぱり僕もワインが好きだから、ワインとフランス料理があって、いい仲間とおいしい料理で、いいワインを飲む、これは和を飲むことだと思います。この共同体は残さないと。 |
| 渡辺 | えらく日本的だね。 |
| 井上 | フランスの三つ星の連中がうちに来ます。彼らよりシェ・イノのほうが、ブレマン・キュージーヌ・フランセーズって言うんです。ブレマンっていうのは、本物のフランス料理だっていう意味なんですよ。 |
| 渡辺 | 彼らがこっちに来て? |
| 井上 | 1966年から1973年ぐらいまで、その時代のフランス料理だって。 |
| 渡辺 | そのころのフランス料理がここに残っているっていうこと? |
| 井上 | そういうことです。残しているのは僕ら何人かですよ。 |






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