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一期一会

岩惣百会楽話 [対談13]岩惣

一期一会
岩惣
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一. 安政元年創業の宿

百会楽話 岩惣 外観

百会楽話 岩惣 旅館内

百会楽話 岩惣 先代女将
渡辺 先代女将は何代目ですか?
先代女将(以下 先代)
  6代目になります。
渡辺すると、創業は?
先代 安政元年でございます。
女将 1854年、ペリー2度目の来航の年です。
渡辺 それから何年たっていますか?
女将 154年目でございます。
渡辺 154年で6代。すごいねえ。
先代割合男性のほうが短命でございます。そういう家系のようです。
渡辺 今、平均寿命で、女性のほうが7才長い。それに結婚年齢が男性が上の場合が多いから。どうしても短命ですね。それで先代女将はここへお嫁にきたのですか?
先代 さようでございます。同じ広島県ではございますが、備後の福山から。
渡辺 お城があるところね。あなたは外国人のようなエキゾチックな顔をしていらっしゃるから、どの代かで外国人の血が混じっているのかと。
先代 もう純然たる日本人なんですが、祖父がまるでイギリス人のような顔立ちで、ハイカラ男でございました。私の記憶に残っているのがジュラルミンの自転車。夏などは麻の白いスーツを着て、白いエナメルの靴を履いて、本当に自慢の祖父でしたので、くっついて歩いていました。そのおじいちゃんが連れていくところが古道具屋でした。
渡辺 ほう。今もお綺麗だけど、若い時は大変だったでしょう。
先代 いえいえ。そういうのはまったく自覚がございませんでした。
渡辺 でもこうして岩惣のご主人に見初められて。
先代 実は遠縁だったんです。

百会楽話 岩惣

百会楽話 岩惣 旅館内からの眺め

百会楽話 岩惣 厳島神社

百会楽話 岩惣 旅館内から庭を眺める

百会楽話 岩惣 旅館内

渡辺 それでぜひと。
先代 お世話好きなおばあちゃんがおりまして、あっという間に海を渡って連れてこられました。
渡辺 海といってもすぐ近くで。お子さんは何人いらっしゃいますか?
先代 2人でございます。
渡辺 現在は長男が継がれている。じゃあ、女将も見初められて。
女将 私もやっぱり連れてこられました。
渡辺 どこから拉致されたの?
女将 広島市内です。
渡辺 それはさらに近い。あなたも可愛い顔立ちで。
先代 本当に町の真ん中から、よく島へ渡ってくれたと思いまして、うれしゅうございます。
渡辺 岩惣っていったら、此処で一番古い名門でしょ。
女将 私は主人と出会うまでは、岩惣を知らなかったんです。
渡辺 えっ、恋愛結婚ですか?
女将 やはり間に人が入って、その方に引き合わせていただきました。
渡辺 じゃあ、この旅館の女将になると知ってびっくりしたでしょ。何歳の時にこちらに?
女将 5年前ですから28歳ですね。
渡辺 こういう老舗の大きい旅館には、なかなかお嫁さんがこない、と聞いたことがあるんだけど。都会でOLでもやっているほうが余程楽だから。でも女将はサッと。
女将 はい。切り替えが早いタイプですから。
渡辺 岩惣の女将さんだと、この辺歩いているとみんなわかるでしょ。
女将 そうですね、宮島の中は。私が知らなくても声をかけてくださいます。
渡辺 先代女将は、ここに住まわれて何年になりますか。
先代 36年。まだちょっと根っこの太さは足りません。(笑)宮島にまいりまして、藩というものがきちんとあったのを感じましたね。
渡辺 宮島はなんですか。
先代 安芸の国。気候もまったく違います。
渡辺 福山とそんなに違いますか?
先代 はい、福山のあたりは、日照りの続くところですから、あちこちに溜池を作らないと、お百姓さんが困るような土地柄です。こちらにまいりましたら、あっという間にかき曇り、雷はピカピカドンドンと。
女将 やっぱり宮島は裏に山があるのでけっこう雨も雪も降りやすいんです。
渡辺 雪が降るの?
女将 年に何回かですが。このあたりも何回か積もることもあります。
渡辺 平地でも、そうですか。
女将 そうはいっても、全体的には瀬戸内の温暖な気候なんですが。
渡辺 そうか。中国山脈は意外に低いから、日本海の寒気がそのまま流れてくるのかも。じゃあ、先代女将はここにこられて、いろいろ大変だったでしょ。
先代 そうでございますね。
渡辺 実家はこういう旅館とか何かをされていたお家ですか。

百会楽話 岩惣 客室一例

百会楽話 岩惣 イメージ写真

百会楽話 岩惣 外観

百会楽話 岩惣 女将

百会楽話 岩惣 イメージ

岩村尚子(いわむらなおこ)
岩惣 先代女将

昭和54年から28年間6代目女将をつとめ、2年前に現女将にバトンタッチ。なじみのお客様のお相手をしながら、若い世代の後見を務める。

岩村玉希(いわむらたまき)
岩惣 女将

5年前に岩惣へ嫁ぎ、女将業の2年目を迎える。目標は岩惣の4代目女将がもみじ饅頭を考案したように、自らの代で新たな名物を生み出すこと。1児の母でもある。


渡辺淳一(わたなべ じゅんいち)
北海道生まれ。医学博士。1958年札幌医科大学卒業後、整形外科講師となり、医療のかたわら小説を執筆。1970年『光と影』で直木賞を受賞。1980年に吉川英治文学賞、2003年には菊池寛賞などを受賞。北海道・札幌に渡辺淳一文学館がある。作品には「阿寒に果つ」「無影燈」「白夜」「ひとひらの雪」「失楽園」など多数。現在文壇の第一線で活躍している。

オフィシャルブログ | 渡辺淳一文学館
先代 機織りです。まったく製造業でございますので、それこそサイレンが鳴って工場が動いて、サイレンが鳴って終わる、そういう生活です。ましてや人の前に出ることがございませんでした。幸い先代が元気でいてくれまして、助かりました。
渡辺 その頃は旧館だけですか。
先代 こちらの離れと本館、13室でございました。当時はお部屋のタイプが全部違ったものですから、ちょうどバブルに突入する前ぐらいに旅行社の方から、同じタイプの部屋をそろえてほしいという要望が増えてまいりまして。
渡辺 それで新館を作られた。
先代 はい、56年でございます。古い建物は残しながら、新たに建設しました。
渡辺 部屋数が大分増えたわけですね。
先代 38になりました。厳島神社さんから邪魔にならない景色にしなければと思いまして、高さ制限がございますので、その高さだけの風船を上げ、私が根っこを持って、主人がグルグルグルグルどこから見たら見えるのか調べました。見えないように。
渡辺 そんな配慮をしたんですか。
先代 やはり厳島神社の屋根のカーブは素晴らしいですし。それからこちらの離れは高床の方式も採り入れておりますので、できるだけ外の景色をお部屋の中に持ち込みたいということで。しかもこの谷間を圧するものにならないように気をつけました。当時の建築会社の方々が、鼻血が出るほど仕事をしたっていう話はよくあるけれども、ここでは目から血が出るほどの仕事だって。
渡辺 もっとひどかったと。
先代 お陰様で、関わってくださった方々が持っていらっしゃる力を全部出しきってくださいましたので、本当に存在感のない建物を作ることができました。厳島さんを邪魔しないように、その気持ちでさせていただきました。
渡辺 それだけ神社に気を遣っているんですね。まあ神社で成り立っている島だからね。観光客は最近は多いんですか。
先代 はい。特に昨年は多かったです。
女将 昨年1年間の来島者が300万人を超えました。ちょうど10年前のNHKの大河ドラマ『毛利元就』の放送の時が300万人でしたが、それ以来です。
先代 でも尾瀬とかお客様が多すぎて弊害が起きていると。宮島の場合も、そういう観光地にならないよう気を付けなければいけません。
渡辺 宮島は建物だからね。尾瀬のように自然じゃないから。
女将 でも、自然も多く残っているんです。国立公園であり神の島なので、木を切ってはいけないという規制がありまして、珍しい原種のものもあります。
渡辺 木の伐採にも許可がいる。
女将 いりますね。
渡辺 このあたりは風致地区っていうか、国定公園なのかな。
女将 このあたりがそうなんです。
先代 史跡名勝でして。ですから、個人のお宅でも建物を建て直す時には、文科省に許可をいただきます。それから、色やデザインも、文化財委員で全部審議をするんです。
渡辺 大変ですね、それは。
先代 逆にいろんな規制がある中で、皆さんがこういうふうにしよう、ああいうふうにしたいと表現なさいますので、調和は取れていると感じますね。
渡辺 これくらいの部屋数で、これだけ名門だと、旅行社に頼まなくても、なじみ客がいっぱいでしょ。
先代 そうでございますね。直接のお客様も多いですけれども、昭和40年代はちょうど旅行業者が大きくなられる時代でございましたので。
渡辺 要望があったわけだ。
先代 幹事役の方が、それぞれ違うお部屋では、部屋割りするのに都合が悪いと。
渡辺 なるほど、団体でね。
先代 同窓会などなさいますと、ご夫婦2人ずつのお部屋がほしいといわれます。こういう複数あるお部屋でなくてもいいので、夫婦2人で使わせてほしいと。そうなりますと、30名のお客様でも15部屋いるわけです。それで新館を作りました。今年の3月から温泉を改装し、露天風呂を新設しました。
渡辺 谷に面していて、せせらぎも聞こえて、気持ちのいいお風呂ですね。


岩惣」は一休.comからご予約いただけます。

Photographs by 安井敏雄

一期一会


第19回 森 一紀 / 辻 利幸 / 樋口逸郎(奈良ホテル) …歴史の重み 老舗の力
第18回 木村襄司(小樽・銀鱗荘オーナー) …一大道楽で鰊御殿が旅館に
第17回 三國浩紀(アラマンダ支配人) …遠大で壮大な挑戦
第16回 比嘉建己(ジ・アッタテラス支配人) …ヨーロッパのシックなリゾートが沖縄に
第15回 清水かほる(ベネッセハウス副総支配人) …「よく生きる」ことを考える場所
第14回 勝俣伸(富士屋ホテル社長) …かごで上ったアジアンテイストのホテル
第13回 岩村尚子(岩惣 先代女将)・岩村玉希(岩惣 女将) …光雅と静寂の神の島
第12回 中村律子(旅館くらしき女将) …美しき蔵の町の蔵の宿
第11回 向井聖子(三養荘女将) …財閥の別邸
第10回 北山ひとみ(二期リゾート 代表取締役) …十八世紀フランスのサロンを目指す
第09回 西村明美(柊家女将) …京都は京都らしく
第08回 マルコム・トンプソン(ザ・ペニンシュラ東京 総支配人) …日本に学んだおもてなしの心
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第06回 齋藤朝子(海石榴大女将) …万葉の湯
第05回 石川修(ホテル ニドム社長) …ニドム カムイに授かりし森
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