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一期一会

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五. 300年蔵作りの面白さ


渡辺 女将さんは、朝ご飯は家で食べるんですか。 百会楽話 旅館くらしき 館内の様子1

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百会楽話 旅館くらしき 館内の様子2

百会楽話 旅館くらしき 渡辺氏

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中村 はい、自宅で。
渡辺ここに出られてお客様を見送るでしょ。そして、今日のいろいろな予定と、今夜はどういうお客様がくると、番頭さんと打ち合わせをして。
中村 必要に応じてミーティングを料理長やフロント、各担当者とします。これも、サラリーマン的感覚なんです。問題があった時に相談にくるようにと、だいたいは各自に任せています。気になるお部屋は見ますが。最初に今日1日の席を、昼の座敷、夜の座敷、お泊まりを確認するんです。細かい打ち合わせや手配は、極力担当者ごとに発想してやってもらって。お客様にお礼状を書いたり、お姉さん方のシフトを組んだり、親会社への報告書類を書いたりします。
渡辺 何かことが起きれば責任者だから大変だよね。夕食をお客さんが食べて、宴会が終わったら、やっと安心して。
中村 安心して髪を下ろして、通勤の格好に戻り、自転車で家に戻り、遅い夕食をとるというのが1日です。
渡辺 自転車で帰るんだ。でも、外に出るとあなたを知っている人は多いでしょう。
中村 ではそうですね。指名手配犯みたいに顔がわかってしまっています。(笑)
渡辺 狭いからね。でも仕方ないな。
中村 アナゴを焼かせていただきます。アナゴは広島のほうが有名ですが、このあたりもいいのが揚がります。
外国のお客様にも同じものをお出しするのですが、炭火焼きは喜ばれます。アナゴを食べたことがないと、ヨーロッパの方は特におっしゃるのですが、召し上がると、これなら食べられるリストに入れようとおっしゃいます。フランス料理でも伝統的なアナゴ料理はあるそうなんですが、そのお料理自体、4年に1回しか食べないとおっしゃっていました。桜の季節と紅葉の季節は、半分ぐらいが外国からのお客様になりますね。
渡辺 ヨーロッパの方が多いのですか。
中村 アメリカが多いです。個人旅行の有名な雑誌に載せてくださったのが理由だと思います。日本の方は1泊しかなさらないのですが、外国のお客様はここを拠点にして、宮島と姫路城、山陰・四国まで2泊、3泊して足をのばされます。お料理のことなど大変なことはあるのですが、日本の代表のつもりで、それも励みになります。旅行記ができるほど転々と旅されるお客様も増えておりますね。わざわざここまできたから、萩・津和野あたりまで足をのばそうと。
渡辺 和風のいい旅館は外国人に人気だからね。柊家もそうだけど。京都からだとここまで新幹線で1時間ぐらいだから、外国人は連続して日本の古いところを泊まり歩くのが面白いんだろうな。
中村 初めて旅館に泊まる方もおられますが、だいたいの方は一度こられたことがあり、その時は東京と京都に行かれて、それ以外の都市は、2度目、3度目の方が多いですね。
渡辺 東南アジアの人は?
中村 韓国・中国、アジアの方は少ないです。先日、アンドラという国の方をお迎えしたんです。スイスとドイツとオーストラリアの境にある。恐らく世界一小さい国のいくつかの一つだと思うんですが。ヨーロッパの小さな国に、私もその国を知らなかったら、ちゃんとあると、ご自身の国のガイドブックを持ってきてくださいました。
渡辺 なるほどね、ところで各部屋の特徴を教えてほしいな。
中村 まずこちらの「東の間」は、先ほど申し上げたように、米蔵の1階部分でございます。この部屋は、当時とほとんど間取りを変えていません。一番の特徴は、大きな蔵ですので、柱・梁がしっかりとしています。2階の「巽の間」を見ていただくと、大きな梁が非常に克明にごらんいただけます。ほとんど当時のままです。
渡辺 「東の間」は布団を敷くのですか。
中村 4名様の場合は2名様はお布団を。
渡辺 そこにも部屋があるんだ。なるほど。
中村 改装前は段が1段あったのですが、フラットな続きの間にしてベッドルームにしました。
渡辺 今はどの部屋もベッドになっているの?
中村 全部屋ベッドですが、「東の間」は、無駄な部分がないお部屋で、ふすま1枚でほとんどの場所に行き来できるレイアウトです。広く感じていただけるのですが、実は一番小さいお部屋ですので、リーズナブルなお値段です。今日、先生にお泊りいただく「巽の間」は、階段部分も含めて3番目に大きなお部屋になります。ご存じのとおり、棟方志功先生と司馬遼太郎先生がお好きだったお部屋が、現在の和室部分。当時の「巽の間」は、和室と浴室・トイレのみでしたが、ベッドルームを作り、部屋数を増やし、つないだだけです。今のベッドルームは、以前は「奥2階」という別の部屋でお出ししていました。
渡辺 よかった、ベッドで。後の三つは?
中村 「蔵の間」は一番古い建物で、一説には築300年近いとも言われる、もともと道具蔵として使っていた小ぶりな蔵です。ベッドルームを付けた3部屋を、まるまる1棟メゾネットタイプにしました。扉を開いていただくと、上下にございます。この部屋のみ掘りごたつが和室にございます。6畳が4畳半に近い見え方で迫ってきます。本当に蔵づくりの面白みがあふれるお部屋です。外国の方も気楽に畳の部屋で過ごせると人気をいただいております。
渡辺 ここの和室は、密閉感がたしかで、こういうところは蔵のせいだね。
中村 堅牢な感じですか。中の建物の雰囲気が、数寄屋調に建てたお部屋が「奥座敷」という部屋です。倉敷らしさは、今おっしゃっていただいた特徴のあるお部屋に強く感じていただけると思います。実は広さは一番「奥座敷」がございまして、外国のお客様も日本のお客様も、人数の多いお客様にも喜ばれています。「松の間」は和室、洋間、ベッドルームがあり、女性に人気です。
渡辺 同じ日本旅館といっても、倉敷独特だね。いわゆる日本旅館とはちょっと違う。
中村 倉敷独特と申しますと、お客様はチェックインされても、ものの20分で観光に出ていかれる。午後6時頃にお食事というめどを立てておられて、その直前に帰ってお風呂を浴びられるんです。それならば、レイトチェックインでいいと思いまして、滞在時間が短くなるのですから、お部屋代を安くしたプランを考えたところ、春先から秋口まで、とても顧客満足度の高いプランになりました。何かにつけて過剰なことをしてしまいがちで、加減が難しいですね。
渡辺 いいじゃない。いろいろな企画というか、考えでやってみて。
中村 支持いただけないプランもありますが。
渡辺 でも、ボーッと100年も同じことをやっているよりはずっといいよ。安政以来、この味守って一筋なんて、そんなのおいしいわけないよ。いろいろ試行錯誤しながら新しいものにトライするのは、いいことですよ。
中村 ちょっと安心しました。

百会楽話 旅館くらしき お部屋1

百会楽話 旅館くらしき お部屋2

百会楽話 旅館くらしき 倉敷美観地区風景


中村律子(なかむら りつこ)
旅館くらしき 女将

1973年生まれ。穴吹興産に就職し11年間勤務する。2006年7月より「旅館くらしき」の女将となる。



渡辺淳一(わたなべ じゅんいち)
北海道生まれ。医学博士。1958年札幌医科大学卒業後、整形外科講師となり、医療のかたわら小説を執筆。1970年『光と影』で直木賞を受賞。1980年に吉川英治文学賞、2003年には菊池寛賞などを受賞。北海道・札幌に渡辺淳一文学館がある。作品には「阿寒に果つ」「無影燈」「白夜」「ひとひらの雪」「失楽園」など多数。現在文壇の第一線で活躍している。

オフィシャルブログ | 渡辺淳一文学館



旅館くらしき」は一休.comからご予約いただけます。

Photographs by 安井敏雄

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