

退団する1年ほど前、男役トップに就任することになりました。トップになる以前に、小さい公演では主演をつとめたので、私なりに「真ん中に立つ人はこうありたいな」という思いがありました。トップになってからは、無理にではなく、ごく自然にその思いを実行できました。
ただ、主役になるのとほぼ同時に、雪組から宙組に組替えになって……。宝塚は全部で5組あり、あまり他の組の方と共演する機会はありません。私は違う組に出たこともありましたが、宙組は初めてです。トップとしてのプレッシャーに加えて、今までまったく一緒にお芝居をしたり、作品を創ったりしたことのないメンバーと一つの作品を作っていくプレッシャーの両方がありました。
でも宙組の皆さんは、すごく温かく盛り立ててくださって、主演の私を支えてくれた。組変えにならなければ知らなかったメンバーと、宝塚在籍の最後に出会ったことは、私のなかで大きな宝物となりました。
退団公演はとにかく怪我をしないように、体調を崩さないように――今までも気をつけていましたが、特に意識しました。それまで15年間、決まったように稽古場で稽古をし、舞台稽古をして、初日を迎えて、という生活をずっとしてきました。「もう、この稽古場にはこないんだ」「こういう形で舞台稽古はしないんだ」と一つずつ終わっていくのは、やはり寂しかったですね。
退団公演の時は、大きな劇場で温かい拍手を毎日いただけたのが、嬉しかったですね。ありがたかった。おかげさまでとても心地よく、舞台に立てました。
千秋楽の日は、「最後の一日頑張ろう」ととてもすがすがしく迎えることができました。気負いもなく、自然体で最後の一日を過ごすせたと思います。
それにしても、ファンの存在は本当にありがたいと思います。皆さん自筆のお手紙で、自分のことのように、いえ、自分のこと以上に、私のことを考えてくださる。そんなお手紙に、どれだけ励まされてきたでしょう。公演中、体調の悪い日もありますが、ファンの方の嬉しそうな顔を見ると、元気になるんです。
ファンの方が一番喜んでくださったのは、トップになったことだと思います。また退団公演の時は、私自身、複雑な気持ちを抱いているわけです。でもみんな私のかわりに、泣いてくれるし、闘ってくれる。本当に大切な存在だなと思いました。
宝塚に限らず、何か「いやなことがあった」とか、「元気ない」という時、舞台を観たり、映画を観ると元気になったりしますよね。それが、エンターテイメントの力だと思います。私も、「勇気が出る」とか「元気が出る」といったお手紙をいただくと、「こういう仕事をしていてよかったな」と、つくづく思います。「人生ひっくり返るくらい辛い出来事があったのに、宝塚の舞台を観たら気持ちが楽になった」というお手紙をいただきました。そう感じていただけたら、これほど幸せなことはありません。
