

この夏公開される『怪談』という映画で、三味線の師匠、豊志賀を演じています。豊志賀は、狂おしいほどの愛に生きた女性で、尾上菊之助さん演じる新吉を愛して、愛して、愛しすぎるがゆえに、さまざまなことが起きてしまいます。
『怪談』というタイトルから、ホラーを連想なさる方も多いかもしれません。確かに怖い映画ですが、決しておどろおどろしいものではなく、女性の心をしっかり描いた映画です。そのあたりについては、台本ができる前から、監督と話しました。もちろん豊志賀という人物像についても話し合っています。たとえばこのシーンは泣くほうがいいのか、あるいは茫然自失なのか……と場面についてです。
監督と違った見方をすることもあります。たとえば豊志賀は、新吉とすれ違った瞬間に、惚れてしまいます。シナリオを最初に読んだときは、はたしてそんなことがあるのだろうかと、正直、疑問がありました。でも監督は、「それが男と女というものだ」とおっしゃる。だから私は、そういう女を演じなくてはいけないわけです。
不思議なもので、「豊志賀」の気持ちになって入っていくとひと目、新吉を見ただけで恋に落ちる女になれるんですね。「あっ、男と女の間にはこういうこともあるかもしれない」と思いました。
カメラが回っていないときはリラックスして、自分の出番となったら、集中力を最大のところまでグッと高めていきます。すると「我」の部分がなくなって、役に入ってしまうんです。意識的に切り替えるというより、切り替わっちゃうんですよ。それまでは、「今日の撮影は時間がかかりそうだな」などと考えているのに、いったん役に入ると、何もかも忘れてしまいます。
撮影を終えると、疲労感はもちろんありますが、それ以上に充実感があります。私はきっと、その充実感が好きなんでしょうね。
『怪談』は日数をかけて、丁寧に撮った映画です。あるシーンを撮るために、私、半日ぐらいのたうちまわって、泣きましたよ。血圧250くらいにあがってるんじゃないの、という感じですよ(笑)。できあがった作品のなかでは、短いシーンですが……。この場面は、みなさんにしっかり観ていただきたいですね。どのシーンかお知らせしたいのですが、あまりお話すると『怪談』の面白さが半減してしまうので、ぜひ探してほしいんです。
ワンシーン、ワンシーン、徹底的に吟味しているので、たとえば雪の降らせ方ひとつとっても、監督のこだわりがあります。セットや小道具もすごく凝っていて、日本家屋の美しさが充分表現されています。CGも使っていますが、CGに頼りすぎず実写で表現しているところも、監督の技量でしょうね。
そういう意味では、とても贅沢な作り方をした映画ですし、映像美も楽しんでいただけると思います。
福岡県出身。1985年、宝塚歌劇団退団。映画『化身』(86年)で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞、『失楽園』(97年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞、『破線のマリス』(2000年)日本映画批評家大賞女優賞受賞。出演作品に映画『東京タワー』(05年)、『魍魎の匣』(07年末公開予定)、舞台『ハムレット』(90年)『MAMA LOVES manboT〜W』(00年〜06年)、テレビドラマ『オヤジぃ。』(03年)、『GOODLUCK!!』(03年)、『白い巨塔』(03年)、『プリマダム』(06年)など多数。詩やエッセイも執筆。代表作は『もう夫には恋できない』(04年)、五行詩『恋のちから 愛のススメ』(06年)などがある。映画『怪談』は07年8月4日より全国一斉ロードショー