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一期一会

阿川佐和子阿川佐和子 心に残る出会い5

出会いのお陰で生きている5
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[5]私が感じたワクワクを伝えたい

先日、ある雑誌で、東京子ども図書館の理事長・松岡享子さんと対談させていただきました。そのときに、松岡さんがおっしゃっていたのが、世界中のどの国でも、童話というものは、それが発展途上にある間は非常に教訓的な物語が多い、ということ。でも、だんだん洗練されてくると、教訓はなくなっていくと。「教訓ばかりが先行している国は、まだ発展途上です」とおっしゃるのを聞いて、私はすごく嬉しくなってしまったんです。『ギョットちゃんの冒険』に、ちょっと教訓を入れなきゃいけないなんて思っていた私が間違っていたと思いました。一見、何の役にも立たないと思われる物語こそが子どもにとっては大事だというようなことをおっしゃったのが嬉しかったですね。

阿川佐和子さん 石井桃子さんの「かつら文庫」に通っていた元子どもの人が、自分がかつら文庫に通っていたことを誇りに思う、というお話をされたことがありました。「あの時代に、素晴らしい物語に出合ったことによって、今、いろいろなことを感じたり見たりする力が養われた。“戦争はいけない”とか“環境は大切にしなければいけない”とか、そんなことをそのままお題目として教えられなくても、子どもの頃に、素晴らしい名作に出合っていれば、そういうことは自ずと身についている。自分たちは、そうやって大人になった自覚がある」と。それを聞いたときに、私、ウルウルきちゃってね(笑)。幼い頃に豊かな物語に出合うことがいかに大切かということを、改めて思いました。

私が奇想天外なことにワクワクするというのも、元をたどれば、かつら文庫で出合った物語の影響が大きいかもしれません。たとえば、ケストナーの『五月三十五日』。たんすの後ろから、別の世界に入っていくと、そこにはしゃべれるスケートを履いた馬が出てきて、その中をぐるぐる回るというのを読んだとき、たんすの後ろに別の世界がある、ということの魅力と言ったら、ありませんでした。どこかに、その世界に入れる穴があるんじゃないかと思って、毎日必死で、朝に夜に、家のたんすの後ろを覗いていましたから。

あるいは『メリー・ポピンズ』では、双子の赤ちゃんが登場するのですが、その赤ちゃんが、大人と会話を交わせるようになる前の段階では、すべてのことが見えていて理解できている、メリー・ポピンズとも会話ができるという話。それを読んでからは、「ダァダァ」と言っている赤ちゃんを見つけては「本当は、お前全部わかっているんでしょ?」なんて話しかけていた時代もありました。(笑)

イメージ 『ちびくろさんぼ』で虎がバターになった場面の感動も忘れられません。ちびくろさんぼはホットケーキを作ったけれども、私はそのまま溶けたバターをスープとして飲みたくて(笑)、母に「バターのスープを作ってほしい」と頼んだりしたものでした。

小説の仕事も段々増えてきましたが、これから、小説を主体に書いていくのかどうかは、私はまだ自分で判断できるほど書いていませんから、何とも言えません。何て言ったって、受注産業ですから、まず需要がないことには話になりませんし。(笑)

エッセイは大分書いてきましたが、小説は、また、まったく別の文章書きの力が必要です。作家によって「小説よりエッセイのほうが生き生きしているな」と批評されている人もいるし、「エッセイは下手だけれども、小説はうまい」といわれる人もいる。私の場合もうちょっと修行してみないと、実際何と言われているのか、何と言われる可能性があるのか、自分でもわからないですね。もっかトレーニング中ってことで。
私は、自分が小説というものに夢中になって、小説の世界の中で人生が救われたという経験が浅いものですから(笑)、どういうものが人の気持ちを動かし、おもしろいと思ってもらえるかが、正直よくわからないんです。ただ、これだけは、わかるということがひとつだけある。それは、やはり、自分が子どもの頃から、何にワクワクしてきたかということ。そのワクワクのポイントだけは、今でも私の中にありますね。ですから、それを、書いているときも感じたいし、人にも伝えていけたらいいなぁ、と思っています。



阿川佐和子
阿川佐和子 ― あがわさわこ ―
1953年11月1日、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。エッセイスト、小説家、インタビュアー、司会者として幅広く活躍している。1999年『ああ言えばこう食う』(檀ふみさんとの共著 集英社刊)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館刊)で坪田譲治文学賞を受賞。エッセイに『グダグダの種』(大和書房刊)『オドオドの頃を過ぎても』(新潮社刊)『トゲトゲの気持』『空耳アワワ』(中央公論新社刊)、小説作品に『婚約のあとで』『スープ・オペラ』(以上新潮社刊)『屋上のあるアパート』『恋する音楽小説』(以上講談社刊)などがある。







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