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一期一会

阿川佐和子阿川佐和子 心に残る出会い4

出会いのお陰で生きている4
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[4]現実からの逃避がたのしかった

先月『ギョットちゃんの冒険』(大和書房刊)という童話を出しました。7歳のギョットちゃんという女の子が主人公です。森の中で、ケッヘル博士という動物学者で発明家でもある人物と暮らしていますが、森の仲間たちの本当の色が見えるように、その修行として、ある日、フクロウ語を習い始めるところから始まる話です。行きがかり上、挿絵も表紙も、私が描いたものになりました。

イメージ1 7歳の女の子が主人公ですから、表紙には、その女の子と彼女の修行のきっかけとなるカラスは出てきたほうがいいと思ったんですね。ムードだけというよりは、ドンと大きいカラスが出たほうがインパクトがあると。ところが、最初に上がってきたデザインのカラスが、ちょっと怖かったんですね。これは違うと思って、「もっとユーモラスに」と言うと、担当の人が「カラスをユーモラスにするってどんな感じ?」と聞くので、私がそこらへんの紙に「たとえばさぁ……」と言いながら、ペンで描いたところ、それがそのまま表紙に採用されちゃったの。あとで知らされて驚きました。(笑)

小説としては『ウメ子』(小学館文庫)に続く別少女バージョンで、読者層はウメ子と同じぐらいの子どもで、少女が主人公ということも同じです。ですから、まず絵で違うようにと思って、ギョットちゃんは面長にしました。すごく美人ではないの。でも、すごく美人じゃない子を描いたら、物語を進めるにおいて自由になれたんです、私。

『ウメ子』は、多少現実的な、私が育った頃に近い、日本のちょっと小田舎みたいなところの幼稚園が舞台。お父さんとお母さんがいて、お父さんは会社に勤めていて、という現実的な部分を入れて書きましたが、今回はまったくかけ離れた設定にしたいと思ったんです。だから、主人公は、“ギョットちゃん”なんて名前がついているけれども、どこの国の人かもわからない。どうやら日本人ではないらしい。じゃあ、アメリカかって言うと、これまたわからない。そういう、国を規定したものでもないし、森の中でフクロウ語を勉強するわりには、アヒルやアリや鹿とはしゃべれる。これどういう矛盾なんだ!? ということもよくわからない(笑)。学校行ってないの? コイツは、っていうと、行ってないという。かろうじて理屈はつけるけれども、奇想天外、何が出てくるかわからない話にしたのです。

イメージ2 でも、書き終えてみると、私はこういう話が好きだったことに気づきましたねぇ(笑)。現実から逃避するのが、非常に楽しかった。大人の世界からの逃避でもありますかね。

子どもの頃に、私は、児童文学者の石井桃子さんがやっていらした子どものための図書館「かつら文庫」に通っていました。とは言っても、私は読むことが苦手で、行っても読んじゃいなかったんですけどね(笑)。でも、生意気なことを言うと、読むことが苦手だったからなのか、自分がのめりこめる本が数限られるわけです。それはひとつには、挿絵の洒落た本だった。だから、『ドリトル先生』とか、『くまのプーさん』とか、チャペックとかケストナーの本の挿絵が大好きだったの。ああいう線画で、漫画のようだけれども漫画じゃないという絵がね。そういう絵の本は、物語も洗練されていて好きでした。この本はダサいと思うと、嫌だった(笑)。また「かつら文庫」にはそういう洒落た本がたくさんあったんです。その当時他ではなかなか手に入らなかった、目につかなかった、そういった物語が。

私はわりに、ちっちゃい頃におもしろかったこととか、ワクワクしたこととか、楽しかったことの記憶は、どうやらたくさんあるんです。で、あれをずっと続けられたら生涯楽しいな、と思いながら54歳になった(笑)。でも、そういった記憶が、こうした『ギョットちゃんの冒険』のような物語を書くときに活きてきたんですね。ささいな宝ではありますが、そうしたワクワク感をこれからも楽しめるといいなぁ。



阿川佐和子
阿川佐和子 ― あがわさわこ ―
1953年11月1日、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。エッセイスト、小説家、インタビュアー、司会者として幅広く活躍している。1999年『ああ言えばこう食う』(檀ふみさんとの共著 集英社刊)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館刊)で坪田譲治文学賞を受賞。エッセイに『グダグダの種』(大和書房刊)『オドオドの頃を過ぎても』(新潮社刊)『トゲトゲの気持』『空耳アワワ』(中央公論新社刊)、小説作品に『婚約のあとで』『スープ・オペラ』(以上新潮社刊)『屋上のあるアパート』『恋する音楽小説』(以上講談社刊)などがある。







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