

3月で40歳になりました。ここ最近「40代どうですか?」って聞かれるんですけど、まだなったばっかりなので、よくわからないですね。ただ”不惑”とはよく言ったもので、やはり気持ちの上では、今ようやく、本当の意味でスタートラインに立てているというか、スタートの鐘、ピストルの音が聞こえるような感じがしています。そう思えるのは、やはり20代、30代で、壁にぶち当たったり、転んだり、転ばされたり、そういう経験があったからだと思うんです。
それがあったから、本当に気持ちよく40代がスタートできている。ただ、今までは、転んで痛かったとしても壁が助けてくれてきた。これからは、転んだら、そのまま谷底に落ちちゃうような感じはあります。でも本当の意味での勝負がようやくできるんだなとも思います。俳優としても、この10年が、輝ける10年になる気がしています。すごく楽しみですね。
6月7日土曜日から公開される最新作映画『築地魚河岸三代目』で、僕は主人公の赤木旬太郎という男を演じています。彼は若くして総合商社の人事課長に抜擢されたエリートサラリーマン。しかし、会社での大掛かりなリストラの陣頭指揮を執らされることになり、恩義のある上司にも、それを通達しなければならず苦悩するんです。そんなとき、ひょんなことから、田中麗奈さん演じる恋人・明日香の実家である魚河岸の仲卸を手伝うことになり、そこから、どんどん築地の世界に惹かれていき、飛び込んでいきます。
実は僕の祖父母も、その昔、築地の魚河岸で働いていました。3年前、松竹のプロデューサーと食事をしていたときに、たまたまそんな話をしたら、「実は、そういう漫画があるのですが、映画化したら面白いと思うんですよ」と言われたんですね。で、原作のコミックを読んでみた。面白いとは思いましたが、正直、映画化するのは難しいかなぁという気もしたんです。
でも、もしも実現したら協力したい、ということで話はしていたのですが、そこから3年の歳月を経て、ある日、突然台本が届いた(笑)。これが、読ませていただいたら、すごく面白いものになっていたんですよ。
最初は、この映画で何を表現できるのかなと少し考えたりもしました。ところが、築地に通うようになって中を歩いているうちに、築地で生きる人たちが、すごくいい笑顔をするんだと気づいたんです。なんでだろう? と思ったら、あの人たちは、ぶつかり合ったり、口げんかしたり、怒鳴り合ったりして、本来の人間のコミュニケーションを、本気でやっているからなんだとわかったんです。そして、その先にお互いを理解し合えている。
それは、もしかしたら魚という、鮮度が命のものを扱っているからこそのイキのよさなのかもしれないけれど、笑顔も声も目も、とっても人間らしい。一方、撮影からの帰り道に街を行くと、道行く人たちはみんな顔色悪くて、うつむいてずっと相手とメールでやり取りしているんですよ。そういうのを見ていると、自分も含めて、忘れかけたものってあるんじゃないかなと思ったんですね。
撮影も、オフィスビルの間でやっているときとはかなり違って、エネルギーに満ちた場所だから、強烈でしたよね。もちろん魚の匂いも強いですが、これって結構大事なんです。現代社会って無臭じゃないですか。僕はそれがすごく嫌で……。だって、人間って決してきれいなものじゃない。匂いをまといながら、生のぶつかり合いをして、漸く相手との距離がわかってくる。匂いもしないし、なるべく人とも争わないように街を通り過ぎる、旬太郎をそういう人物にはしたくなかったんですね。だから、撮影中は、たとえスタジオ撮影のときであっても、必ず一日一回は魚河岸を通ってから行くようにしていたんです。地方に泊まりのとき以外は、2カ月間、毎日。無臭で仕事をしたくなかったから。
最終的に完成した映画を見たら、自分の中のテーマでもあった、人と人とのつながりとか、人として本来持っていなきゃいけないもの、忘れかけた何か……といったものが全編に溢れていて、自分のやりたかったことが、意外と映画的に映画らしく、しっかりと”泣き”や”笑い”の中で表現されていると思いました。手前味噌ですけど(笑)、本当にいい作品に仕上がったなと思いましたね。
