

昨年は、私にとって転機とも言うべき大きな出会いもありました。11月から12月にかけて出演したミュージカル、『ウーマン・イン・ホワイト』です。作品との出会い、作品を通じての人との出会い、そして自分の声との出会いは、すごく大きかったですね。この出会いで、考え方が変わりました。
私が演じたのは、笹本玲奈さん演じるヒロインの異父妹、ローラの役。一歩引いた、繊細な性格の女性です。その性格を、声質で表現しなくてはいけませんでした。高い裏声で、細く、やわらかく歌うことが多かったのですが難しいし、一切ごまかしがききません。正直、私の歌い方や音域では、無理な役でした。復帰前、1年半くらい声楽をやっていましたが、そんなことくらいで埋められるものではありません。稽古に入ってから、「私には歌えない」「とても無理だ」と、絶望的な気持ちになりました。
稽古中、本当につらい時期があり、駐車場の隅で誰にも見られないように、ボロボロ泣いていました。きっと気づいてくださっていたんでしょうね。共演者の石川禅さんが、「今、自分に降りかかっていることや、背負っているものを、つらいと思ってもいいと思うよ」と言ってくださったんです。びっくりしました。それまでそんなこと、言ってくれる人はいなかったですから。目からウロコが落ちる思いでした。“つらい”と素直に認めることによって、つらいと思わないでいられるんですよね、不思議と。
それまでの私は、どこかで「しっかりしていなきゃ」といつも思っていた気がします。それが人生を乗り切る、一番の打開策だと思っていました。葛藤を隠して平気な顔をしていることが、私の精神や自分を保っていたし、ずっとそうでないといけないと思いこんでいました。
でも一人になったとき、ものすごく疲れてしまうんですね。本当は心も体もつらいのに、蓋をして押さえつけるから、ますますつらくなる。こんなことがいつまで続くのかなという思いでいっぱいでした。
私、歌い出すのが怖いんですよ。歌うために息を吸う瞬間が、一番怖い。それはたぶん、どこかで母と比較されるという想いがあるからだと思います。親子ですから、もちろん声質が似ているんですね。だからといって、同じように歌えるわけではありません。常に無意識のうちに、プレッシャーを感じていました。
18歳、19歳の頃は、話をするために声を発することさえ怖かった。
『ウーマン・イン・ホワイト』の稽古中、練習しても練習しても習得できない。もう無理だと、絶望的な気持ちになってしまいました。それでもミュージカルの歌い方を指導してもらい、必死で声を出し続けることで、いつだったか自分が聞いたこともない、経験したこともないような声が出たんです。え〜っ! とびっくりするような声質だったり、高さだったり。それまでまったく知らなかった、新しい自分の声と出会えた。ほんのちょっとですが、それが自信になっていきました。あの舞台の稽古で辛抱強く教えてくださった先生方とは、たぶん一生の出会いなのだろうなと思いました。
初日を迎えるのが、すごく怖かったんですよ。あんなに怖かったことは、今までにはなかったですね。それでもなんとか初日を迎え、公演日程が過ぎ、千秋楽の日。14歳でデビューして以来、これほど泣いたことがないというくらい泣きました。まるで赤ちゃんみたいに。ヒック、ヒックとしゃくりあげ、カーテンコールなのに顔をあげられませんでした。
『ウーマン・イン・ホワイト』で壁に当たり、壁を触ってみて、その感触を知りました。とてもいい経験だったと思います。これからも次々と壁は出てくるでしょうけれど、逃げない大事さを知りました。そういう経験があったからこそ、新しいことに挑むのを怖いとは思わなくなりました。だから、『ヘイジャパ!』のキョウコのような刺激的な役もやれたと思います。自分の深層心理に潜っていく勇気をもってこそ、役者として立てるんですね、きっと。人間に潜んでいるものを探るのが、役者の仕事だから。だからどんなにつらい経験でも生かされる。ほんと、無駄なことって、何もないんですよね。
