
ところが、もうフラフラになって倒れそうになるくらい物件を見て回っても、これという場所が見つからない。いったん諦めたんですけど、糸井も心残りだったんでしょうね。どこかにもらわれていく前に「最後のお別れ」をするために、2日間だけ家に連れてくることになって。そうしたらすっかり情が移って、返せなくなってしまった。不動産捜しを復活。諦める寸前に見つかって、出会って2ヵ月後、めでたく犬が飼えることになったんです。
ブイヨンと名づけ、家族の一員になってからは生活が一変しました。それまでは仕事のない日は朝が遅かったのに、早く起きて、公園に散歩に行くようになったんです。すると「東京にも緑がたくさんあるし、微妙に少しずつ季節が変わるんだなぁ」って気がついた。一日ごとに変わるんですよ。それまでそんなことに、関心もなかったのに。
雨が降ろうが、大風が吹こうが、ブイヨンと一緒に外に出ると、そういうことも楽しいじゃないかと思える。犬に引っ張られてバタンと顔から転んでも、「そういえば子供の頃、よくこんなふうに転んだりしたなぁ」と、それがまたおかしかったりする。犬についていくと、忘れていた懐かしいものに出会い直しているような気がします。
夫婦二人でいても楽しいけれど、うちには子どもがいないので、間にブイヨンがいることで楽しさが増える。犬が眠そうにしているだけでおかしいし、あくびをしても笑ってしまう。生き物と一緒に生活をすると、こんなにお腹の底からくすぐったいようなおかしさを感じさせてくれるのか。うちはおもしろがりやの夫婦なので、とってもおもしろいものが家族になった、という感じです。
樋口可南子(女優)