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一期一会

樋口可南子樋口可南子 心に残る出会い



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ブイヨンがやってきた 1

「くすぐったいおかしさ」

樋口可南子 イメージ1
きっかけは3年前の秋です。たまたま夫の糸井重里がインターネットで知り合いのブログを見ていて、「おまえの好きそうな写真が載っているよ」と。見ると、すごく力がある写真で、愛らしくて、「えーっ! なんだこの子犬の写真は」とびっくりしましたね。「すぐ見たい」と思い、飼う気もないのに、さっそく連絡をとって、翌日二人でお宅にお邪魔したんです。

犬種はジャックラッセル・テリア。子どもがたくさん見にきていたんだけど、「ちょっとごめんなさい」と言いながら、その子たちをかきわけ、かきわけ(笑)。会う前からすでに気持ちが高まっているので、とにかく「見たい」という思いでいっぱいでした。

子犬は3姉妹。生まれて2ヵ月目で、すごくちっちゃくて、「かわいい」の一言ですね。動き方もほやほやしているし、あどけなくて、不思議なかわいさがある。一番上の女の子に、惚れこんでしまって――。当時、犬が飼えないマンションに住んでいたんです。帰りのタクシーの中で糸井が突然、「俺は犬のために引っ越す!」と言い出して、びっくり。ふだんから「いつか犬を飼いたいね」と言っていたのは、私のほうでしたから。


樋口可南子 イメージ2 ところが、もうフラフラになって倒れそうになるくらい物件を見て回っても、これという場所が見つからない。いったん諦めたんですけど、糸井も心残りだったんでしょうね。どこかにもらわれていく前に「最後のお別れ」をするために、2日間だけ家に連れてくることになって。そうしたらすっかり情が移って、返せなくなってしまった。不動産捜しを復活。諦める寸前に見つかって、出会って2ヵ月後、めでたく犬が飼えることになったんです。

ブイヨンと名づけ、家族の一員になってからは生活が一変しました。それまでは仕事のない日は朝が遅かったのに、早く起きて、公園に散歩に行くようになったんです。すると「東京にも緑がたくさんあるし、微妙に少しずつ季節が変わるんだなぁ」って気がついた。一日ごとに変わるんですよ。それまでそんなことに、関心もなかったのに。

雨が降ろうが、大風が吹こうが、ブイヨンと一緒に外に出ると、そういうことも楽しいじゃないかと思える。犬に引っ張られてバタンと顔から転んでも、「そういえば子供の頃、よくこんなふうに転んだりしたなぁ」と、それがまたおかしかったりする。犬についていくと、忘れていた懐かしいものに出会い直しているような気がします。

夫婦二人でいても楽しいけれど、うちには子どもがいないので、間にブイヨンがいることで楽しさが増える。犬が眠そうにしているだけでおかしいし、あくびをしても笑ってしまう。生き物と一緒に生活をすると、こんなにお腹の底からくすぐったいようなおかしさを感じさせてくれるのか。うちはおもしろがりやの夫婦なので、とってもおもしろいものが家族になった、という感じです。


[Say Hello!] Photograph by Yukio Iwasaki
©2004-2007 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN


樋口可南子

樋口可南子樋口可南子(女優)
1958年、新潟県生まれ。女子美術大学在学中、スカウトされ、20歳でテレビドラマ『こおろぎ橋』で主演デビュー。
1992年『陽炎』で第15回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。代表作に映画『ベッドタイムアイズ』『陽炎』『阿弥陀堂だより』『明日の記憶』、舞台『近松心中物語』『欲望という名の電車』、など多数。『樋口可南子のきものまわり』『樋口可南子のものものがたり』を出版



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