

春の陽気に誘われて、武蔵野の地を踏みしめる。東京・小金井。
路地を曲がるとそれまでの街の喧騒がまるでウソだったかのように静寂の空間に囲まれる。本当にこっちでいいのだろうか、歩いていくとオレンジの優しい照明に揺れる“TERAKOYA”の文字が見えてきた。
車寄せの奥に通じる小道を進むと、いくつかの小さな建造物がある。そのドアの隙間から地下へと続く階段が妙に気になる。玄関に立つと、一瞬、まるで知人の一軒家に招かれたような感覚になる。そう、どこかで経験したことのあるような懐かしい空気。
ゆっくりと玄関の扉を開くと、黒い制服に身を包んだメートルに迎えられる。「お待ちしておりました。どうぞこちらでお待ちください」案内された部屋に飾られた白黒写真を眺めながら息をととのえる。
「先々代、つまり私の祖父なんです」
ふと、声がするほうを向くと、柔らかい笑顔の料理人が立っていた。今日、お話を伺うTERAKOYAの三代目オーナーシェフの間(はざま)さんである。
「TERAKOYAは実は昔、文字通り“寺子屋”と称していたんですよ。今はレストランなんですが、戦後まもなくはフランスで覚えた料理を様々な人に伝え、教える場所だったんです」
なるほど。実は一番気になっていた謎がスッと解けた。
「さっそく、日本庭園が見えるメインダイニングにご案内しましょう」
廊下の奥まで進み、ガラスの扉を開くと、陽にあたり輝く新緑が日本庭園に表情をもたらしている。白を基調とした開放感あふれるダイニングスペースには、ゆったりとした感覚でテーブルが配され、どこの角度からも見事な風景が広がる。
“美しく、楽しい時間”
贅沢な空間。不思議と心休まる空間。“落ち着く場所”というのは、まさにここなのかもしれない。
「TERAKOYAは“美しく、楽しい時間”を過ごせるレストランであることを大切にしています」…美しくて、楽しい。新しいコトバだ。
「フランス料理には約束事があります。それらを守りながら、決して崩しすぎない。私もオーナーシェフとして、お客様にお召しあがりいただきたい料理を創ります。コースしかないのも、ひとつのコダワリです。料理はお任せいただきますが、お飲み物、特にワインについてはご自由にお楽しみいただけるよう、地下にあるワインカーブに約500種類ほどご用意しています」
TERAKOYAの真髄は“間さんの料理を楽しむ”ことなのだ。
「レストランは“表現する場”だと思うんです。それをスタッフが支えてくれて、お客様が楽しんでいただくことで完結する。レストランは人が成せる業なんです」
「コース料理を一遍のオペラだと考えてください。12皿の流れの中にも様々な抑揚があります。その変化を少しずつ感じながら、優雅な時間を過ごして頂きたい、その一心で料理を創っています」
料理を創る。作るではなく?
「2ヵ月に一度、必ずメニューを新しくします。一度メニューに載った料理は二度と登場しません。これまで3000種類ぐらい料理を創ったでしょうか。やっぱり最新の料理が最高の料理なんです。お客様にも味わっていただくために、常に料理を創造していきたい。だからTERAKOYAでは料理を『創』っています」
