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一期一会
扉の向こう


 

RISTORANTE VENTO MARINO 支配人 JR湘南新宿ラインに揺られて小一時間。大磯の駅に降り立つ。
梅雨の狭間、好天に恵まれて、太陽の光でほのかに香る暖かい潮風が頬を掠める。さて、今日のレストランはどちら……。

ロングビーチへの案内をくぐり、坂を下ろうとしたその瞬間。重厚な門構えと、気品あるアプローチ。その白い家の玄関に、笑顔の男性が待ち構えていた。RISTORANTE VENTO MARINOのソムリエでもあり、支配人の渡辺 浩さんが温かな眼差しで迎えてくれた。

VENTO MARINOからは海が見えると聞いてきた。しかし、あまりにも駅から近い、近すぎる。はたして、ここから海を眺められるのだろうか。

RISTORANTE VENTO MARINO 外観 「ご心配なく、しっかりと海をご覧いただきながらお食事ができるお席をご案内させていただきます。さぁ、暑いですから中に入りましょう」

特派員自身がアメリカに住んでいた頃の家を想い出させるような3段の階段、そして玄関の扉。邸宅を改装したレストランは数多くあるものの、なにか不思議な感覚を覚える。

「おそらくそれは、この家が大磯を見続けて100年という歴史がそうさせるのかもしれませんね。この日本最古のトゥーバイフォー建築をレストランにする時、最も意識したのは100年の歴史を残すことでした。扉のデザイン、お部屋のレイアウト、細やかな装飾ディテールに至るまで、明治時代の息遣いをそのまま感じていただけるようにすることが、大磯に住む方々への感謝の気持ちです」

ふとうしろを振り返った。石畳が敷かれている門のあたりからこのドアまで、優に30メートルはある。一般の家にしては、とても優雅なアプローチだ。

「イタリア料理のレストランには、リストランテ、トラットリア、ピッツェリアなどの種類に分けられます。リストランテの条件は、できる限り手を尽くしたおもてなしと席までの長い道程であると言われています。当店の、門から玄関、そしてお席までつながる長いアプローチ、風格ある廊下や階段、個性あふれるダイニングの設え、そしてゆったりとしたテーブルとテーブルの間隔。リストランテであること、それはいい意味での無駄が多いということですが、それは優雅さの裏返しでもあるのです」

「そして、このリストランテは幸いなことに、大磯に住んでいる方々に愛されるようになりました。開店当初は興味津々で門の前で立ち止まって見ていた方々も、今ではお客様としてご来店いただけるようになりました。なにしろ100年も建っている家ですから、地元では知らない人はいないのです。私たちにはその歴史の重さを感じながらサービスを行っています」

RISTORANTE VENTO MARINO 扉 渡辺さんは地元への感謝を大切にしている。
大磯の住民に愛されてこそ、この家、このレストランは輝きを保てる。

玄関を一歩入ると、日の光が反射して眩しかった白い外観とは対照的に、鮮やかな壁の赤が目に飛び込んでくる。床は時代を感じさせるダークブラウンのフローリング。歩くと「ギッ」と古きよき時代の心地よい音がする。

「こちらの本館は1階と2階に個室があり、隣には新しく建てた新館があります。ともに良さがありますが、やはり歴史を感じるのは本館ですね」 昔ながらの天井の低い階段を上がり、2階へ。家であれば、おそらく子供部屋や書斎といったところだろうか、部屋が3つある。特に山吹色の壁と大きなステンドグラスが印象的な部屋には6名席がセットされていた。

RISTORANTE VENTO MARINO 個室 「個室という考え方はありませんが、1つのお部屋には1組様しかご案内しません。2名様でも、1室ご用意いたします。できる限りプライベートな空間で、ゆったりとお過ごしいただきたいからです。そしてこちらがROOM OCEANと呼んでいるお席です」

横に長いスペースに、2名席が3つ。椅子にかけてみると、ちょうど目線の高さに新館の赤いスペイン瓦と、その先に碧い水平線が見える。相模湾だ。右手に 大磯の港、左手の向こうに平塚の海岸が見える。はるか遠くにゆったりと大型船が揺らめいている。最高のシチュエーションである。しばし、窓に映る碧い海と、青い空に見入る。贅沢な時間だ。

RISTORANTE VENTO MARINO 店内写真・テーブル





「ちょうど今、ディナーの準備をしていると思うのですが、シェフがパスタを打っているのをご覧になりますか」

RISTORANTE VENTO MARINO パスタのばし なかなか見られない手打ちのシーン。迷わず渡辺さんと厨房に向かう。

「VENTO MARINOでは、パスタは全て手打ちです。毎日6、7種類のパスタをシェフが作っています。パンももちろん自家製。最近はハーブも自家栽培し、とれたての新鮮なハーブをつけあわせに使っています。リストランテですので、手造りのおもてなしが大切なのです」

自家製と聞けば響きがいい。でもそれを用意するのは非常に手間と時間がかかる。料理を楽しむゲストにとって、美味しくて当たり前。そこに料理人が手をどれだけかけるかは、作り手の自己満足に過ぎないかもしれないが、その心意気が感じられた瞬間から、人はそのレストランに通うようになる。

隣の新館に案内される。こちらは大きなホールだ。80名規模のパーティもできそうなぐらい、開放感に溢れている。なによりも、大きな窓から、スカッとした青空が見えることに快感を覚える。

RISTORANTE VENTO MARINO ホール
「昨日、こちらでお食事をお楽しみいただいた女性のゲストは、お誕生日でした。『タンティアウグーリーアーテー!』とスタッフみんなで歌ってささやかなお祝いをさせていただきました」
聞くと、イタリア語で“ハッピーバースデートゥーユー”とのこと。お誕生日や記念日のゲストには、名前を入れた特別なデザートと、写真撮影、そしてイタリア人スタッフも一緒になってイタリア語で歌ってくれる。とってもユニークなもてなしだ。

RISTORANTE VENTO MARINO 支配人 「記念日をお祝いされるゲストは非常に多いです。一休.comからご予約いただくお客様も、そういえば今日も1組、結婚記念日のお祝いの方がいらっしゃいます。また、ランチの時間は、圧倒的に女性のお客様が多いです。30代から90代まで。お年を召したお客様でも、残さずに料理を召しがってくださって、景色とこの建物のもつ雰囲気をお楽しみいただいています」


最後に一休会員のみなさんにひとことお願いします。
大磯という街の歴史と自然を、ぜひ見にいらしてください。歴史的な建物の椅子に身をゆだね、大磯の自然溢れる食材を味わうこと、これこそ真の贅沢だと考えています。100年という長い月日により創り上げられた家の重厚さを感じてください。柱や扉は、明治時代そのままです。そして、食事を楽しむ時は“料理+アルファ”がとても大切です。それはレストランの雰囲気であったり、そこで過ごすときの気分であったり様々ですが、VENTO MARINOにお越しいただければ、そのプラスアルファをいつでもご用意してお待ちしております。

レストランを後にする時間になり、玄関先まで渡辺さんが送ってくれた。道の向かいに自転車の駐輪場があり、地元の高校生だろうか、自転車を押して道路に出てきていた。

「以前、あのような高校生たちがレストランの門で話してるのを聞いたんです。“いつかこんなところで結婚式やりたいね”と。正直嬉しかったですね。地元に愛されているのを直接感じたことと、若い彼らの憧れの場所になっていることが」渡辺さんが橙色から紫に変わり行く空を眺めながらそっと教えてくれた。


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