

「まぁ、飲んでみてください」
そっと目の前にフルートグラスを差し出された。ゆっくりと口に注いでみる。最初のミルクの柔らかな泡立ちに続き、ポタージュの優しい温かみを感じる。さらにグラスを傾けると、一転ヒヤッとして濃厚な味わいに包まれた。
「面白いでしょ。このスープが今、一番お客様から喜んでいただいているんです」
と満面の笑みで語ってくれたのは、今日お話を伺う総料理長の馬渕誠さん。大柄で豪快、しかし温和な空気で包み込んでくれる魅力的な雰囲気を持ったシェフである。
京都・祇園。四条通から花見小路に入り、すぐのところにMの文字が際立つ暖簾が風に揺れている。
2008年4月1日、レストランの名前が『トランティアン』から『キャレ ド ミュー』に変わった。31という数字にこだわって名付けた『トランティアン』。今回の名前にもさぞかしこだわりがあるのだろう、と支配人の森田和幸さんに由来を聞いてみた。
「『キャレ ド ミュー』の由来はオーナーシェフ“Makoto Mabuchi”の頭文字MMからきています。
Mを二つ重ねると「m2」=平方メートル。フランス語でm2をキャレ(Carrá)と読みます。頭文字の「M」は、ギリシャ語読みでミュー「
」と読み、ミューが二つということで、『キャレ ド ミュー』となりました。」
オーナーシェフ 馬渕 誠
2008年4月からオーナーシェフとして新たなスタートを切った馬渕シェフ。
「夢・感動・癒しのテーマを大切に、より確かな食材を探求し、大地の恵み、素材の造り手の愛情を感じ、皆さまに温度差なくお届けできるよう心がけていきたい。新しいレストランの名前も皆様に末永く愛され、記憶に留めていただけるレストランにしたい」と話す。しばらくすると馬渕シェフが次の料理を持ってきてくれた。
「うちではコースの中で野菜を たっぷり食べられます。キャレ ド ミューの料理は“旬菜ふれんち”と表現しています。野菜が育つ土から見に畑に出かけ、特定の農家と契約しています。その土でできた野菜と、その生産者の想いを込めて、いかに美味しく美しい料理に仕上げるか。力が入ります。純粋に野菜らしさを味わっていただきたいのです」
たしかに野菜と真剣に向かい合って食事をしたことは少ない。いろんな想いを聞きながら野菜を噛み締める。野菜の味がする。ところで、なぜ“旬菜ふれんち”と平仮名なのだろう。
「そこはギャップの楽しみです。町家の風景と、扉の向こうに広がる洋館とのギャップがキャレ ド ミューの特徴なら、その料理も洋食ではあるけれど、平仮名のふれんち。なんといってもこの柔らかな語感がいいと思いませんか」
“フレンチ”と“ふれんち”。
馬渕シェフにとっては似て非なるもの。キャレ ド ミューの空間で佇んでいると、言葉で表現できないが、なんとなくその違いが分かる気がした。
次の料理の間までの時間で、森田さんに館内を見せていただいた。
1階にはウェイティングスペース、ダイニングホールと個室。2階がメインダイニングになるが、その1階と2階をつなぐ階段の脇にキッチンが「見える」。ただ見えるのではなく、ガラス張りになっており、2階に移動しながら厨房の隅々までが見えるのだ。
「私たちサービススタッフとお客様の接点は多いのですが、料理をご用意する料理人も、美味しい料理を作ることで、お客様をお迎えしているんです」
ホワイトとベージュの同系色のクロスが上品さと華やかさを演出。そこにアクセントとなるショープレートのエメラルドグリーンが鮮やかに映えている。席の間隔はゆったりとしており、目線を合わせればすぐに来てもらえる席数にまとめられている。
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「京都は学会が多いんです。ある学会にいらしたお客様が来店されまして、食事の途中で“この野菜、青森で採ってらっしゃるのでは?”とご質問されました。たしかに青森の契約農家から届いた野菜です。青森出身のそのお客様とは、これが縁で地元でもお会いする機会に恵まれ、青森でもキャレ ド ミューをご紹介いただけるようになりました」
「はんなりしに、おこしやす」
