

フランス料理で、じゃがいもをこして作ったビシソワーズは、夏のメニューのトップであるが、「かぼちゃと雲丹の冷たいスープ」が初夏のメニューとして登場していた。かぼちゃは甘すぎないだろうか、と心配になる。食事の最初に出てくるスープが甘いと、魚や肉料理を食べる気持ちが萎える。さらに、かぼちゃと雲丹は合うのだろうか、不安も残る。
備前焼の皿に、馴染みのない野菜が山盛り盛られて、テーブルに運ばれてきた。小さな黄色い花をつけている。その花はとても小さい。一つの房と言っていいのだろうか、3センチから4センチぐらいである。店の主人に聞くと「花山椒です。関東では採れないので、珍しいかもしれません」と言われた。「花山椒は4月と5月しかありませんから、今日が最後ですね。きんきのしゃぶしゃぶで召し上がっていただきます」と付け加える。
そら豆の旬は4月から6月。桜が咲いた2ヵ月後が、その地方での空豆の旬だと言われる。 南北に長い日本では、産地を変えて2ヵ月は味わえる。はっきりと“季節”を感じさせてくれる野菜の一つである。桜が散るとレストランや料理屋に行く度に「そら豆まだ」と問うようになる。爽やかなこの季節にそら豆とビールもいい、真夏の枝豆とビールとは違った味わいがある。お相撲のつまみも初場所の浸し豆から、春場所のそら豆になって初夏がかもし出される。
氷の上に並べられた平目、真鯛、きんき、関鯖、はまぐり。4月から6月にかけておいしいのは、なんと言っても真鯛である。産卵期の鯛は脂がのっている。産卵してしまうと、脂が抜けて痩せてしまい、身がパサパサになるが、初夏には、また脂がのってくる。
イタリア料理のアンティパストの代表がカルパッチョ。ガラスの皿に薄く切られた鯛が重なることなく、一枚一枚きれいに置かれている。細かく切ったイタリアンパセリが全体にかけられ、中心には千切りのねぎがほどよい程度に盛られている。オリーブオイルとレモンがかけられたシンプルなカルパッチョである。
「今日の魚は」と問うとウエイターがワゴンを押してきた。細かく砕いた氷の上に、ひらめ、きんき、真鯛、スズキなどが並べられている。この時期がおいしいスズキにしようか。大きな目で訴えかけているようなまっ赤なきんきにしようか。それともみんなまとめて魚介類のスープ仕立て。いや、もうちょっと軽めでこくのあるムール貝がいい。
木々が芽吹き、黄緑色のやわらかい葉が、陽に輝く。風にかすかに揺れる並木の若葉がレストランのテラスに淡い影を描いている。パラソルの間から射す太陽を肌に受け、気の早い外国人の女性は、タンクトップを着ている。連れてこられたゴールデンレトリバーは、食事をしている主人を座って待っていたが、終わらないので諦めたのか、陽だまりで心地よく眠っている。
春から夏にかけて、フランス料理では、ワイングラスやカクテルグラスにスープを入れて出されることがある。ワイングラスに入れられた、涼しげなスープ、赤ピーマンのムースの上にトマトのゼリーの二層重ね。サーモンピンクの淡い色に透き通った赤いゼリーが乗せられている。野菜とは思えない。器のイメージもあるが、まるでデザートである。
エントランスを入ると、マダムが笑顔で迎えてくれる。来てよかった、と思う瞬間である。オープンキッチンにいるシェフと目が合い、目礼を交わす。一気に温かな雰囲気が醸成される。これが行きつけのレストランの好さである。
ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー。フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど北欧では、春から夏にかけてベリー系のフルーツが市場に並ぶ。トマトやピーマンの赤や緑とともに、ストロベリーやブルーベリーも色どりを添える。一つもらって口に運ぶと、甘酸っぱい果汁が広がる。日照時間が少ない北欧だが、この果実には、太陽で熟した甘みがある。