
2001年に母校早稲田大学ラグビー部の監督に就任し、2006年からはサントリー・サンゴリアスの監督をつとめています。
監督になると見るアングルが変ってきたし、選手時代より深く見るようになります。考える時間も、3倍も4倍多くなりました。すると、練習で今週はこういうことがあったからゲームはこうなるだろうと試合を予測できる。何点差くらいでどちらが勝つかも見えてくる。でも、人間がやることですから、予測どおりにはいきませんが、そこが面白いところでもあります。
監督になって1年目、2年目には、こういう形にはめれば結果は出るはずだという、システム論から入っていきました。みんなが同じことができて、同じ結果が求められるチームを作っていくことが、強いチームになる秘訣だろうと。実際、ある程度結果が出ました。
前年まで弱かったチームが、メンバーが同じでも強いチームに変わる。ところがそれではいいチームになれても、本当のチャンピオンにはなれない。監督になって4年目に、そう気づきました。
選手たちが出したパフォーマンスと相手の力を比べながら、「これを足そう」「あれが足りない」と考え出すと、半年ぐらい前にやっていたことはなんだったんだ、ということが、ざらにあります。半年前と今では、ぜんぜん違うこと言っている。その繰り返しです。
面白いのは、1回できたことも時間がたつとできなくなる。盆栽と似ているかもしれませんね。毎日手入れをしていると、形よく育つけれど、1週間、放置すると、どんどん違う方向に伸びてしまう。それと同じで、3ヵ月、半年たってしまったら、まったくいいチームでなくなっている場合があります。
先週できたのに、今週できないこともあります。ラグビーがメンタル面、つまりモーチベーションのウエイトが高いスポーツだからです。先週は緊張感がまったく途切れない、素晴らしい試合ができたのに、今週はできない、といった具合です。なぜかというと、緩むんですよ。僕も監督7年目ですから、素晴らしい試合の直後は緩むことを前提に、経験の浅いルーキーメンバーをあえて入れたりして、次の試合のチームを作ります。人間の本質が見事に出るから、ラグビーは面白いんです。
これは経験上、学んだのですが人を一つの方向に向かって進めていくには、「言葉」が大事です。僕は常に有言実行。もちろん、言葉が響く選手も、響かない選手もいます。響く選手には「言葉」が信頼に変わっていくんですね。
大学時代ラグビー部の先輩に、イラクで亡くなった奥克彦大使がいらっしゃいます。奥先輩が命名した言葉が、「アルティメート・クラッシュ」。「徹底的に勝利を得る、究極に勝つ」というとても強い言葉です。早稲田の監督時代に奥先輩に作ってもらったこの言葉が、13年ぶりにチャンピオンになる大きな原動力になりました。このスローガンが自分たちのプライドだという気持ちが選手たちに芽生えた。できなければ早稲田のプレーヤーじゃない、と。
その経験から、サンゴリアスの監督になっても、言葉を大切にしようと思いました。強い言葉を作って、チームのプライドを作らなくてはダメだ。そこで考えて作った言葉が、「alive――生き続ける」です。すべての局面で、最後まで諦めずに、相手に支配されずに動き続けることが一番大事。極論すれば、勝ち負けよりも大事だ、と。
この言葉を掲げるようになってから、確実に結果が出てきました。前年度6位だった成績が、去年は2位になった。ラグビーは必然のスポーツですから、監督が変わっただけではチームは強くはなりません。みんながチャレンジして、同じ意識をもって向かったから結果が出せました。
結果が出ると、選手たちの間に、自然に「aliveできたから勝てた」という思いが芽生えてきます。選手一人ひとりも、自分の心の中で使ってくれていますよ。しんどいなと思ったとき、なんかモーチベーションがあがらないなと思ったときなど、いろいろなところで使える言葉です。
今年は引き続き、去年の熱を持って、「alive」2年目に入るわけです。もう充分、サントリー・サンゴリアスの言葉になっていますし、世のラグビーファンはこの言葉を聞いてサンゴリアスを連想します。僕たちがaliveし続けているところを見て、同じ気持ちになる人が増えれば、僕たちのミッションは果たせる、と思います。
僕たちのミッションは、スポーツで夢と感動を伝えることです。僕たちが熱くなる。言葉を大事にする。仲間を大切にする。そんな姿をグラウンドで見せることで、同じように感じる人たちを多く作りたい。そう願っています。
清宮克幸(きよみや かつゆき)
1967年、大阪府生まれ。茨田高校でラグビーを始め、高校日本代表になる。早稲田大学に入学し、日本選手権優勝。4年には主将として大学選手権優勝。卒業後はサントリーに入社し、2001年まで中心選手として活躍した。現役時代のポジションはNo.8、フランカー。2001年、早稲田大学ラグビー部蹴球部監督に就任。4シーズン連続で関東大学対抗戦を全勝優勝、大学選手権は2度制覇している。2006年からサントリーラグビー部 サンゴリアス監督。著書に『究極の勝利』『最強のコーチング』などがある。
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