
実は今、サッカーからまったく離れており、試合もほとんど見ていません。マリノスで2年連続優勝した後、そのあとまた同じやり方を繰り返すのはどうなのかな、と思って。どうも、同じチャレンジを根気よく続けていく才能がないんです。
そうこうしているうちに、去年の夏、自分が生きているというのはどういうことか、考えてみたくなったんです。「ひょっとしてオレは、自分の成功ばかり追い求めてきたんじゃないか」と、立ち止まってしまった。試合をやっていても、勝っても負けてもいいや、と思い出して。そんな人間が監督だったら、勝てるわけありません。精神的に闘える状況でなかったので辞めました。
次に何をしようか考えていなかったので、8月から年内、まったく働かなかったんですよ。そうしたらカミさんの機嫌がだんだん悪くなって(笑)、家の冷蔵庫に入っているビールがそれまでエビスだったのに、それがちょっと安いのに変わって、今度は娘と「発泡酒にしようか」と話している(笑)。これは、働かなくてはいかんと思って、講演活動を始めました。
今は主に、環境問題や、難民関係に積極的に関わっています。難民関係でいえば、難民フットサルや、カンボジアでの地雷除去フットサルを支援したり、電動車椅子のサッカーのワールドカップを10月に日本で開きますが、その支援をしたりしています。
環境問題は、学生時代から取り組んできたし、自分なりに勉強してきました。当時の世の中は環境とかエコとか言っても、「それ何?」という感じでしたが、この2、3年で、劇的に変わってきている。今はチャンスだと思っているので、サッカー協会にも、「やってみませんか?」と話を持ちかけています。
サッカーは本来、ボール1個でできるし、Jリーグの理念のように地域に根ざしたスポーツクラブができたら、休日に近くのスポーツクラブに行って、バレーボール、サッカー、テニスなどを楽しめる。これは、モノを消費しないライフスタイルなんです。要するにJリーグはライフスタイルを変えていく拠点になれます。
しかし、本来サッカーは環境にいいはずなのに、現実は何万人もスタジアムに人を集めて、煌々とライトを点けて試合をする。これは計算したら、ものすごい環境負荷なんです。1試合をすると、約3,150本木を植えなくてはいけない状態です。
それを少しでも減らすことが、サッカーやスポーツを永続的に続けていけることになるのではないか。それとともに二酸化炭素削減などの啓蒙活動をするのに、サッカー選手が「電気を消そう」と呼びかけても効果があるんじゃないか。
FIFAは国連より大きな組織で、一元管理ができます。日本発でFIFAが取りあげたら、世界中に環境問題が広がるんじゃないか。そういうことをやろうよと、日本サッカー協会に働きかけているところです。「岡田がまた、ややこしいこと言ってるなぁ」と思われているかもしれないけれど(笑)、地道に説得している最中です。
今のところ、不思議とサッカーが恋しくはならないんですよ。サッカーから離れたら、芸術家や経済人など、それまでとは違う方たちと出会えるようになって、すごく充実しています。今までとは違った世界です。
日本代表の監督をやって、コンサドールという弱いチームを勝たせて、J1でマリノスで優勝させて、次にモーチベーションを持たせてくれるチームがあれば、何かやるのかな。「サッカーで町おこしをしたい」とか、夢を語ってくれればいいんだけど、今そういう感じがないしね。もし可能ならば、海外で監督をやってみたい気持ちはあります。
やっぱりサッカーが好きだし、自分にとって大切なものだと感じています。離れようとしても、離れられない。いつかきっと、また戻る予感はしています。
岡田武史(おかだたけし)
1956年大阪生まれ。早大政治経済学部卒。98年フランスW杯で日本代表監督を務めたのち、99-01年コンサドーレ札幌監督、03-06年横浜F・マリノス監督を歴任。現在は日本サッカー協会特任理事として環境プロジェクトに携わる
