
子どもたちをヨットに乗せる時は、集中していない子がいたら、厳しく叱ります。なぜなら、命がかかっているから。僕は神様じゃないから、24時間、30人の子どもたちを守れません。一人ひとりが認識を持って作業に集中し、お互いに仲間を助け合わなくては、成り立たない世界です。それができるかどうかに、僕は全エネルギーを使います。
1、2日では変わりませんが、10日乗せると、本当にみんな変わります。僕が何も言わなくても、みんなで助け合って見事にこなします。すばらしい成長です。
育つためには、時間が必要です。アサガオも、種をまいた次の日に花が咲くことはない。肥料と水と太陽が必要でしょう。精神力が育つにも、同じように時間がかかります。
体の成長は、目に見えます。たとえば筋肉トレーニングで最初は80キロのベンチプレスを持ち上げられなくても、繰り返すうちに、持ち上げられるようになる。そこで今度は100キロの負荷をかけると、やっぱり最初はできないけれど、徐々にこなせるようになる。そうやって徐々に筋肉が鍛えられていく。
精神筋肉も、まったく同じです。精神の場合、負荷は「我慢」です。負荷を与えて我慢させると、徐々に我慢に耐えられる精神力がつく。そこで、今度はもう少し大きな負荷を与えてみる。そうやって鍛えていくしかないんです。子どもの頃、まったく精神筋肉を鍛えていないのに、大人になったからといっていきなり100キロ分の我慢や責任を押し付けたら、人間、潰れますよ。
子どもたちに、よくこんな話をするんです。人にどれだけ誹謗中傷されようと、そんなことは問題ではない。一番自分の心を傷つけるのは、人を恨むことや、人に不信感を持つこと、怒ることだ、と。
心が傷ついている子どもたちとも接しますが、すごい不信感を持っている。そういう子には、「自分を信じなさい」と言います。
五条の徳と言われるものがあります。「仁・義・礼・信・智」。これを分かりやすく言い換えると、仁は愛や思いやり、義はフェアプレー精神、礼は礼儀、智は智恵、信は信じる心です。
荒れている子どもも、「ずるがしこいヤツ好きか? ずるされたらムカつくだろう?」と聞くと、「むかつく」と答える。ムカつくというのは、やっぱりズルは嫌いなんだね。「後輩から『おまえ』呼ばわりされたら気持ちいいか?」と聞くと、「気持ちよくない」。ということは、どうも礼儀正しいほうが好きらしい。人からも信頼もされたがっている。
要するに、誰の心の中にも5条の徳があるんですよ。だから「それに従いなさい」と言います。
僕が関わった不登校の子どものうち、5オーシャンズの中継を見た子たちは、かなりの人数が学校に戻ったそうです。沖から電話をかけると、「白石さんに頑張ってくださいって言えない。すでに頑張っているから」と、子どもたちが言う。こんなことやっている場合じゃないとわかったみたいですよ。僕は、明日死ぬかもしれない。死ぬか生きるかの中で夢に向かっていることは、子どもたちも感じるんだね。
まずは大人が、夢を持って生きている姿を子どもに見せないと。細かい説明なんか、いらないんです。「子どもは、大人の言うことなんか聞かない。大人のすることをする」という言葉がありますが、まさにそのとおりだと思います。
世界3周しているのは僕ですが、世界3周できるようにしてくれたのは、僕じゃない。まわりの人たちが、僕を作り上げてくれたんです。
親がいて先祖がいるから僕がいるわけだし、小学校もずっと楽しかったけれど、それは友達がいたから。ヨットを始めたら、親方や師匠たちにいろいろなことを教わったから、成長できた。海に出れば、海が気分を鍛えてくれる。そういうことを、今、人一倍実感しています。
白石康次郎(しらいし こうじろう)
1967年、東京都生まれ。神奈川県立三崎水産高等学校専攻科卒業。86年、第1回単独世界一周レース(Bocレース)優勝の故・多田雄幸氏に弟子入りする。94年「スピリット オブ ユーコー」号で世界最年少単独無寄航世界一周を26歳で達成する。2001年帆船「海星」で若者を対象にしたセールトレーニングを行う。03年「アラウンド アローン」クラスUで4位。06年10月、単独世界一周ヨットレース「5oceans」クラスTに日本人初挑戦し、07年4月末、2位でゴールした。著書に『アラウンド アローン』『人生で大切なことは海の上で学んだ』など
