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一期一会
白石康次郎 マイスポーツライフ
白石康次郎

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夢は焦らずゆっくり育てる

白石康次郎 ゴール5オーシャンズは、連続2800時間以上、距離にして3万マイルを闘いますから、長い時間で考えられないと乗り切れません。だから体力があるはずの若い人のほうが、リタイアしますね。我慢できないんでしょうね。

僕も若い頃は、「早く夢を実現したい」と、焦る気持ちがありました。でも今は、物事を落ち着いて、長いスパンで考えられるようになった。そういう意味では、メンタル面で成長しているんでしょうね。

25歳のとき、単独無寄港世界一周を目指しました。そのとき実は、単独世界一周世界最年少記録がかかっていたんです。だから、よし、これでパッと記録を塗り替えよう。そうしたらスポンサーもつくだろうと気負ってもいた。自信満々だった。

2 いわば記録の欲に縛られていたんでしょうね。ところが蓋をあけてみたら、9日目に船が壊れて失敗してしまったんです。
それから2ヵ月後、船の修理を終えて、もう一度世界一周に挑戦しました。ところがまた10日目で、失敗してしまった。

ほんと、こてんぱんにやられた、という感じでしたね。おまえは10年早いとつきつけられた感じがしました。自然のすごさや、世の中の厳しさというものを、いやというほど実感しました。

2回の失敗で、さすがにこの僕も落ち込みましたが、気持ちを立て直せたのは友人や師匠たちのおかげです。

白石康次郎さん 当時、伊豆の造船所に居候させてもらい、お金に換算したら気の遠くなるような便宜を図ってもらっていたのに、親方は「何も言うな」と、肩を叩いてくれました。数日後、親方に、「康ちゃんはヨットのお尻を叩きながら走っているね」とポツリと言われました。その言葉が胸に突き刺さりましたね。僕は「早く走れ」とお尻を叩くばかりで、ヨットに優しくなかったのではないか、と。さらに親方は「何度でも好きなだけやればいいんだ。海は逃げないからね」と。

ある人は、何も言わずに額を渡してくれた。読むと、ゲーテの言葉が書いてあるんです。「大切なことは、大志を抱き、それを成し遂げる頭脳と忍耐を持つことだ。その他はいずれも、重要ではない」。
最初の一節は、よく言われることです。でも僕は、「その他はいずれも重要ではない」という言葉に、ハッとしました。痛かったですね、心が。
2回も立て続けに失敗すると、いったい何がいけなかったんだろうと自問自答を繰り返し、そのうち自分を見失ってしまう。何でオレだけこんなひどい目に合うんだろうと被害妄想に陥ったり、人をねたましく思うなど、余計な感情が次から次に生まれてしまう。

白石康次郎 航海中の様子 しかし大切なのは技術と忍耐を磨くことであって、悔しいとか、申し訳ないとかはどうでもいいんだ。そう言われている気がして、ふっきれたんです。どんなに恥をかいても、みっともなくても、最後までやり抜こうと。それからですね、長いスパンで物事を考えられるようになったのは。
経験を積み重ねるうちに、心も成長し、それによって環境も変わってきました。すると、もっと大きなことができるようになり、夢も成長する。ただ、夢の規模は成長しても、夢の方向性は一度もぶれたことがありません。
僕の場合、そもそも子どもの頃、「地球を一周する」という夢を抱いたのが始まりです。それで船乗りになろうと思って水産高校に入り、そこでヨットと出会った。ヨットは少年時代の夢を実現させるための、ツールの一つだったんです。

白石康次郎 航海中の様子 そうか、ヨットだったら一人で世界一周できる。そう思った僕は、世界1周レースで優勝した多田雄幸さんの存在を本で知り、弟子にしてもらおうと思って電話番号を調べて、自宅まで押しかけて行ったんです。僕のヨット人生は始まりました。

道具は、部品が多くなればなるほど、壊れやすくなります。夢も同じ。僕は、「世界一周したい」というシンプルな夢を抱き、それ以上でも以下でもないから、夢が壊れなかった。

子どもたちには、「夢は、外をいくら探しても見つからない。心の中心にあるものだ」と言います。いつも自分の心を研ぎ澄ませて、きれいにしなさい、と。心が澄んでいたら、道端にタンポポを見つけただけで感動するけれど、心が曇っていたら、そこにタンポポがあることさえ気づかない。
いつでも感動できる心を持っていると、パッと何かに心が震えることがあって、それが“夢”だとわかります。人によって心が違うから、何に震えるかも違ってきますよね。芸術かもしれないし、旅だったり、スポーツだったり。大事なのは、夢に条件をつけないこと。カッコイイからとか、お金になるとか、そういう条件をつけてはいけません。シンプルな心の震えを、大切にしなきゃ。

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白石さん 白石康次郎(しらいし こうじろう)
1967年、東京都生まれ。神奈川県立三崎水産高等学校専攻科卒業。86年、第1回単独世界一周レース(Bocレース)優勝の故・多田雄幸氏に弟子入りする。94年「スピリット オブ ユーコー」号で世界最年少単独無寄航世界一周を26歳で達成する。2001年帆船「海星」で若者を対象にしたセールトレーニングを行う。03年「アラウンド アローン」クラスUで4位。06年10月、単独世界一周ヨットレース「5oceans」クラスTに日本人初挑戦し、07年4月末、2位でゴールした。著書に『アラウンド アローン』『人生で大切なことは海の上で学んだ』など

アジア初の快挙! 単独世界一周ヨットレースを2位でゴール!
白石康次郎 HP冒険授業2007 〜親子でたくましくなる夏休み〜


撮影: 矢部洋一/白石康次郎
稲垣純也(インタビューカット)






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