

スポーツは、人間関係を抜きにできません。先輩、後輩がいて、指導してくれるコーチや周りの人がいて、練習しながら一つのことにみんなで向かっていく。その過程で、さまざまなことが起きる。ライバルとどう向き合うか、上の立場になったとき後輩をどう引っ張っていくかなど、人間関係をすべて経験できるので、社会が凝縮された感じがします。社会に出て仕事をすると、上司や部下、あるいは取引先の人たちなど、さまざまな人間関係の中で生きていかなくてはいけません。それと、まったく一緒です。
僕が体操教室に通い始めたのは4歳。とにかくエネルギーがありあまってヤンチャな子どもだったので、何か体を動かすことをさせないとマズイと親が思ったみたいです(笑)。始めてみたら性格的にもあっていたようで、9歳からは本格的に取り組みました。それからはずっと、体操漬けの日々でしたね。
たくさんの喜びも味わいましたが、つらい経験も数多くあります。たとえば僕を可愛がってくれていた先輩が、怪我が原因で車椅子の生活になった時は、本当にショックでした。
「おまえはこうなったらいかんぞ」
病院でそう言われたことを、今もはっきり覚えています。僕自身、怪我で無念な思いをしたこともあります。
スポーツに打ち込んでいると、常に挫折や葛藤と向き合って、自分と闘い続けなくてはいけません。また密度の濃い人間関係の中にいるので、人とのかかわり方も学びます。自然にコミュニケーション力も培われるわけです。
子どもは勉強ができればいい、成績がよければいいという価値観の親もいますよね。「スポーツバカ」といった言葉もありますが、間違った概念だと思います。体育会系の人間は、社会に出ても活躍できます。子どもの頃から勉強だけしかしなかった人とは、人生の経験値がまったく違う。しかも、コミュニケーション力もついていますから。何をやるにしても、コミュニケーション力なしには、うまくいきませんよ。
それにスポーツを続けてきた人は、“根性”と“プラス志向”の両方があります。ということは、何かトラブルや失敗、困難があった時に、次に立ち向かえる力を持っています。問題が起きても、次にこうしようとか、どのように解決しようかという考えができる練習をしてきました。言い換えると、逆境に強いんです。
ところが根性がないと「もう、やめた」となってしまうし、マイナス志向だと困難が次のプラスにつながらない。自分で、ダメだと決め付けてしまうから、道を閉ざすことになりかねません。
僕は人間の基礎を、スポーツを通して学びました。体操という環境と出会えたから、なんとかまともな人間になりましたけれど、僕みたいにパワーが有り余っている人間は、悪い方向に行けば、ものすごく悪いヤツになっていたと思いますよ。その自信がある(笑)。そういう人間を、いい方向に向けていかないと、よくないですよ。その環境を作れるのは、大人なんです。
勉強中心で、いろいろな経験なしにいきなり社会に出てしまうと、後から大変だろうなと思います。長い目で見たら、少々勉強がおろそかになっても、若い頃にスポーツをやった経験が生きていく上で大きな助けになる。これは僕の実感です。
池谷幸雄(いけたにゆきお)
1970年、東京都生まれ。4歳から体操を始める。小学校1年生の時、大阪に転居、その後、清風中学校・高校で才能が開花。1988年ソウルオリンピックでは団体、個人床で銅メダル。1992年バルセロナオリンピックでは団体で銅メダル、 個人床で銀メダルを獲得。1992年秋、引退。翌年から、タレントとして歩み始める。テレビ、ドラマ、CM、バラエティ、キャスターなど幅広い分野で活躍中。また、「池谷幸雄体操倶楽部」を設立。選手の育成を行っている。日本体操協会理事
