

アスリートにとって、プレッシャーとどう向き合い、どうコントロールするかは、とても大きな問題です。
僕がやっていた体操の競技会の場合、何時何分何十秒に競技の番がくるのか、あらかじめ分かっています。そのピンポイントに、自分を最高の状態に合わせるよう、調整しなくてはいけないのです。
旗が振られると、手をあげて、演技をして、それを審判が見て点数が決まる。一発勝負でやり直しがきかないし、後から補うこともできません。
競技の最初のほうに出るのか、最後のほうに出るのかでも、精神的にかなり違います。たとえば前の人が微妙な演技をして、審判が集まって協議を始めたら、リズムが狂ってしまいます。
「さぁ、行こう」と思った時に、行けないわけですから。そこでうろたえてもダメだし、緊張しすぎてもダメ。もう一回、自分の気持ちを立て直さなくてはいけません。

試合の時に緊張するのは、決して悪いことではないんです。緊張が足りないと、力が抜けるみたいな感じが出て、かえってダメな時もあります。いい緊張の具合は、人それぞれ違うので、どのくらいがベストかを自分で覚えなくてはいけません。試合を多く経験することで、“このくらいの緊張ならいけるな”とか、“これは緊張しすぎだから体が動かない”とか、自分の心と体の具合がだんだん分かってくるんですよ。
よく言われるのは、「試合の気持ちで練習しろ。練習の気持ちで試合に臨め」
練習の時に、試合の場所を思い浮かべて、「今、審判が旗をあげた」「自分が手をあげて演技を始める」「これを失敗したら予選を落ちる」などと、具体的にシュミレーションしながら、わざと自分にプレッシャーをかけるんです。
すると、なんでもないところで失敗したり、逆にうまくいったりとか、いろいろなことが起きる。そうやって、心と体のバランスを、練習で試していきます。ただ漫然と練習していたのでは、演技がよくなりませんね。そして、心と体のバランスをいち早く掴んだ人間が、強くなる。
試合のときは、自信を持っているか、持っていないかでも、プレッシャーの度合いが変わってきます。自信を持って競技に臨むためには、練習量も大事。「これだけやってきたんだから大丈夫」と思えると、プレッシャーを軽減できます。
僕が初めてオリンピックに出たのは高校生の時のソウルでした。夢が近づいたというワクワク感でいっぱいだったし、刺激的で、とにかく楽しかった。周りもさほど、僕に期待していなかったと思います。次のバルセロナオリンピックでは、みんなを引っ張っていかなくてはいけない立場だし、「メダルはとって当たり前、金を取ってこい」みたいな感じでしょう。楽しむというよりは、プレッシャーとの闘いでしたね。
しかも練習中に怪我をしたことも重なって、練習量が足りなかったんです。だから、かなり不安がありました。でもそこは「病は気から」の反対で、「大丈夫だ。調子が上がっている」と自分に言い聞かせて、気持ちで自分を引っ張りあげました。それができるのが、僕の強みかもしれません。
プレッシャーに強いほうです。そもそもプレッシャーがかかるということは、みんなが注目している、ということでしょう。僕はもともと目立ちたがり屋で(笑)、人から見られるのが好き。見られるのが嬉しいから、プレッシャーを「よし、頑張ろう」というプラスのエネルギーに変えていけるわけです。
プレッシャーをいい方向に向けて行くには、「プラス志向」が大前提です。ではどんなふうにして、自分をプラス志向に持っていくのか。次回は、僕が経験の中でつかんだコツを、お伝えしたいと思います。
池谷幸雄(いけたにゆきお)
1970年、東京都生まれ。4歳から体操を始める。小学校1年生の時、大阪に転居、その後、清風中学校・高校で才能が開花。1988年ソウルオリンピックでは団体、個人床で銅メダル。1992年バルセロナオリンピックでは団体で銅メダル、 個人床で銀メダルを獲得。1992年秋、引退。翌年から、タレントとして歩み始める。テレビ、ドラマ、CM、バラエティ、キャスターなど幅広い分野で活躍中。また、「池谷幸雄体操倶楽部」を設立。選手の育成を行っている。日本体操協会理事
