

2月18日の東京マラソンの参加者は、約3万人。応募者は約9万人だそうですから、抽選で落ちた人も大勢います。信じられない人数ですよね。
今までも東京がマラソンコースになりましたが、東京を走れるのはタイムを持っているエリート選手だけでした。その東京を、タイムに関係なく、しかも観光しながら走れるのは、そうそうないチャンスです。競技で東京を走った私も、銀座の大通りを走りながら、「すごい!こんなところ走ってるよ」と嬉しかった。浅草の雷門の前を走りながら、嬉しくて興奮していましたから。(笑)

東京マラソンは、最高のレースだったのではないでしょうか。走りながらランナーたちが喜んでいるのが伝わってきました。冷たい雨が降っていて、空は暗かったけれど、沿道の垂れ幕や応援する人たちの声援が熱くて、明るい空気が生まれていました。沿道の応援と、ランナーの喜びが一体となっていました。ハイタッチをしたり、手を振ったり、「ファイト!」という声援に「ありがとう」と答えたり、人と人のコミュニケーションがあり、気持ちの交流があった大会だと思います。
それにしても、完走した方が98パーセントだったのには、驚きです。天候が悪かったので、一般の人はかなり棄権するだろうなと思っていましたから。制限時間は7時間。私は3時間以内で走れるから参加するけれど、それ以上かかるなら、しんどくてやらないかもしれません(笑)。7時間動き続けること自体、半端じゃないですから。それも、冷たい雨の中。ラストランナーは年配の方で、7時間ちょっと過ぎてゴールしましたが、走り続ける力があることに感動しました。
マラソンをする方のなかには、何かに打ち勝つためにとか、誰かのためにとか、テーマを持って走る人もいます。東京マラソンでも、心臓移植手術を受けた方が、人から助けてもらった自分の命をアピールするために走りました。そういう事実と想いがテレビであまり報道されなかったのはとても残念でした。これからは、いろいろな意味を持ってマラソンに挑戦している人がいるということを伝えないともったいないですね。
ただ記録を求めるのではなく、それぞれが違う目的を持って走っている。走る意味は違うけれど、全部“走る”ということで表現できる。それが市民レースのよさだと思います。言い換えると、一人ひとりに思いとドラマがある。マラソンは、自分の生き方を反映できるスポーツです。だからこそ大勢が走りたいと思うし、観ている人も心を動かされるのだと思います。
私の場合は、今までは競技者としてマラソンに関わっていたので、タイムが重要でした。でもこれからは、多くの市民ランナーと一緒に走る機会も増えるでしょう。私自身、これから教えられることが多いだろうなと楽しみにしています。
有森裕子(ありもりゆうこ)
1966年、岡山県生まれ。就実高校、日本体育大学卒業後、株式会社リクルート入社。バルセロナオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、アトランタオリンピックでは銅メダルを獲得。NPO「ハート・オブ・ゴールド」設立、代表就任。国連人口基金親善大使就任。2002年4月、株式会社ライツ設立、取締役就任。日本陸連女性委員会特別委員。国際陸連女性委員。現在、米国コロラド州ボルダー在住
